人間中心設計(HCD)専門家 資格認定制度の開始にあたって
ユーザビリティなどの品質特性を重視し、ユーザ視点で製品やシステムの設計開発を行う人間中心設計(HCD)の活動に従事している方々は、年を追うごとにその数が増えています。しかし、周囲の皆さんにその概念や意義を理解してもらうことが困難で、その活動の内容や必要性についての説明に苦労されてきたことも多かったのではないかと思います。
専門家としての資格認定制度が確立できれば、活動領域としての輪郭をはっきりさせることに役立ちます。人間工学や心理学などの関連領域においては資格認定制度が既に確立していますが、ハードウェアだけでなく、ウェブやソフトウェアなどの活動領域を含んだHCD全般に関する専門家の資格認定制度は、これまで確立されていませんでした。アメリカでもUPAにおいて2001年から検討が続けられていますが、いまだ制度化できていません。
こうした状況のなか、人間中心設計推進機構(HCD-Net)では、世界ではじめての専門家資格認定制度を立ち上げました。これは専門の度合いによって三段階に分かれたシステムで、まず今回は最上位の専門家の資格認定から開始します。ハードやソフトといった製品やシステムの種別による区分けは特にしていませんが、それは、HCDという活動の基本は領域を超えて普遍的なものである、との考えによるものです。
特定非営利活動法人 人間中心設計推進機構
理事長 黒須正明
人間中心設計(HCD)専門家の活動フィールド
人間中心設計の専門家はすでに様々な分野で活躍しており、資格認定制度ができることによって、それぞれの分野でその専門性を明確にしながら活動を活性化することができると考えられます。
まず設計の上流工程で、コンセプトの提案を行ったり、そのためのユーザの実態調査(フィールドワークなど)を行うユーザ調査を担当している皆さんがいます。従来マーケティングの活動をやってきた人たちの一部も、最近ではエスノグラフィックなユーザ調査を行うようになってきており、その人たちもこの資格認定の対象となります。次に、ペルソナを想定したりシナリオを書いたりして要求事項の明確化の仕事を担当している皆さんがいます。要求分析や要件定義を行っている人々です。ソフトウェア関係でUMLを利用してきた人たちもいるでしょう。こうした方々もこの資格認定の対象となります。
さらにデザインのフェーズに入れば、当然ながらデザイナの皆さんが該当します。もちろんデザイナの仕事は色や形を作りだすだけでなく、ユーザの理解の段階から始まります。対象となるのは、ハードウェアやソフトウェア(ウェブや組込みソフト、業務系ソフトなど)、さらには大規模な機器やシステムなどが含まれます。こうしたデザインの仕事は、コンピュータサイエンスの専門家や機械工学、電子工学、システム工学など工学系の人々も担当しているわけで、そうした皆さんには少なくとも第二水準の資格を取得していただきたいと考えています。評価の仕事に従事しているユーザビリティの専門家は当然資格認定制度の主対象です。これらの人々のなかには、人間工学を母体にした人、認知工学を母体にした人、感性工学や生理学、品質保証などの分野を母体にした人々が入っています。さらに、ドキュメンテーションを作成している人々やユーザサポートの窓口業務を担当している人々も人間中心設計に関わる業務担当者といえます。
このように、人間中心設計専門家としての資格認定制度は、実に様々な活動をしている人々に関係しているもので、その関与の度合いによって第一水準、もしくは第二水準の資格の取得を目指していただきたいと考えています。
さらにデザインや人間工学、心理学など、HCDに関連した基盤領域を学んでいる学生さんも対象となります。特に「ものづくり」という実践場面に関心のある学生さんには、ぜひ第三水準の資格の取得を目指していただきたいと考えています。
