発足記念フォーラム:機構長あいさつ

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みなさま、どうもお忙しいところありがとうございました。

今日が初めてのお披露目ということで、活動の内容や考え方について話をさせていただきます。私の方からは考え方について話をし、後でNPOの活動そのものについては、理事長と事務局長を兼務しております鱗原の方から、お話をさせていただきます。

まず目的ですが二つあります。一つは、ユーザビリティが普及することによってユーザの生活の質の向上を図ることであり、もう一つは産業界を強化することです。また従来は評価中心というボトムアップ的な活動でありましたが、NPOという形でトップダウン的なアプローチで取り組む必要がある。そういったことを日本の関係者総動員で取り組んでいきましょう・・といったような話をいたします。

1.

なぜこういう活動が必要になったというと、一つには、品質概念の中で利用品質(Quality in Use、Quality of Use)が最後までないがしろにされてきたという経緯があります。利用品質は使ってみないと分からないものです。皆さんが店頭でモノを買うときには、機能だとか性能だとか数字に表しやすいものや、デザインとか値段とかそういうものをベースに購入を決定しているのではないでしょうか。安全性とか信頼性とかユーザビリティは使ってみて初めて分かるものです。ある程度レポートも出ていますがなかなか分かりにくい。しかも安全性とか信頼性はユーザの利害に直結しないと思われているところがあります。ユーザビリティが多少悪くても頑張れば使える、という考え方があったわけです。また「声をあげぬユーザ」と言われることがありますが、ユーザは使えないと諦めてしまう傾向があります。不満がありながら表に出さないのです。そのために全国に不満がありながら、それが顕在化しないということになります。もう一つは、現在の飽和した製品開発を打破しないといけないということです。いままでは新機能とか多機能性を目指してやってきたのですが、これからはそれだけでは商品が成り立たなくなっていくと思われるのです。

これからは 本当にユーザに必要なものはなにかを見据えて、モノづくりをしていく必要があります。サービスという視点も含めてモノを考える必要があります。また本質的な機能であれば競争力強化にも繋がるので、ユーザビリティをきちんと考えていくことが産業界にとってもプラスになると考えられるのです。

つまり、本質価値としてユーザビリティを考えなければおかしいということになります。従来は、特に使いやすさというものは付加価値と見なされていた傾向がありますが、ユーザビリティは付加価値ではなく本質価値であると認識を改めていただくことが大切です。ユーザビリティと使いやすさとは全然違うものです。使いやすさはEasy of Operationなので、ユーザビリティの下位概念になります。こういった面がこれから改善や推進をしていくべき課題であるとユーザビリティ関係者の間で認識され、NPOという形で組織的に取り上げていこうということになったわけです。

これまでのユーザビリティの考え方を振り返ると、30〜40年前は人間工学の身体特性とか生理特性をベースとしてマンマシンインタフェースの改善に注意が向いていたといえます。

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25年くらい前、80年代になると分かりやすさについて、それがどのような仕組みによって決まってくるのかを考えようということで、認知工学が起こってきました。取扱いやすさの他に分かりやすさが重視されるようになってきたのです。これが第二期になります。

90年代はユーザビリティの時代といえ、ユーザビリティという言葉が出てきて専門家の間で市民権を持つようになりました。Human InterfaceとかHuman Computer Interactionという概念が関係者の間で話題にあった時代でもあります。こうした時代にユーザビリティ工学が発達したのですが、当時は評価という活動が中心でした。ただモノができたということで評価をしても、納期との関係で改善ができないとか、あまりに根本的なところで問題が発見されて作り直しをしなければならないけれどその余裕はないとか、いろいろ問題点がありました。あるいはそういうことで使いやすさのパッチをあてて使いやすくしても本当に売れるのかという面で、経営者の共感を得られにくいというようなこともありました。こうした意味で90年代初期はユーザビリティにとって不遇の時代であったといえます。

95年頃になると、その反省から、ユーザの生活状況にとって適合した機器・システムを作るには、その理解から始めなければならない、つまりコンセプトメーキングをユーザビリティの視点からやらなければならないという視点に変わってきました。つまり付加価値から本質価値にユーザビリティの位置づけが変わってきたのです。こうした状況を大きく変える契機となったものが99年に発効されたISO13407という規格です。この前後から2000年代初頭にかけて、新しい形でのユーザビリティが発展してきました。つまり設計の上流工程からはじまり守備一貫した取組みが行われ、経営や品質、マーケティングなど今までユーザビリティとはあまり関係が無かったものとの連携がでてきたのです。

もう一つは、2000年頃から活発になりだしたユニバーサルデザインとの連携があり、ユーザの多様性に対する理解が深まってきました。このあたりが最近の特徴といえるでしょう。

さてユーザビリティの概念を改めて定義しようとすると、現在はISO9241-11で定義されているものをベースにしているといっていいでしょう。その前にニールセンによって与えられた定義もあるのですが、ISO9241-11はより広い概念で、積極的かつ肯定的です。ニールセンは、悪いところを見つけて改善するのがユーザビリティだとしていたのですが、それにUtility性、つまり機能や性能を加えて、本当にユーザの目的を達成させてあげようとするのがユーザビリティだと、そういう理解に変わってきたわけです。それを象徴しているのがISO9241-11という規格です。

ISO9241-11の定義には、想定されたユーザがちゃんとやりたいことができて効率的、効果的に満足度を得られる、という意味でUtility的な視点も入っており、ニールセンの定義がSmall Usabilityと呼ばれることがあるのに対してBig Usabilityとも言われています。

さらにこれを拡張することも必要と考えられます。つまりユーザの多様性に対する配慮(ユニバーサルデザイン)と、ユーザの置かれた状況の多様性に着目しようということです。あるいは人間中心設計では、設計というプロセスが中心であると思われやすいのですが、実は設計を含んだ製品のライフサイクル全体の問題であるという観点、さらにISO13407が対象とする製品分野(コンピュータ関連機器)以外の製品、たとえば自転車や住宅なども含めていこうということです。

2.

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ユニバーサルデザインとの関連について述べますと、有名なロンメイスの7原則は、彼の仕事の影響からか多少建築におけるデザインを指向している傾向があります。たとえば7番目の原則などが特にそういう傾向にあります。ともかく、ユニバーサルデザインの原則として特徴的なのは1番(誰にでも公平に使用できる)であって、他の2番〜6番は実はユーザビリティ原則と同じものです。つまりユニバーサルデザインとユーザビリティはほとんど同じで、単に違うのはユニバーサルデザインが特に多様なユーザを考えようと強調している、という点であるといってもいいでしょう。ユニバーサルデザインの活動にはアクセシビリティの関係者が多く、その皆さんの努力により障害者や高齢者への配慮が重要であるという認識が高まってきました。ただ真にユニバーサルなデザインを考えるには、人間の持っている多様性を全て考える必要があります。人間の多様性には、年齢や性別から始まり、言語や文化の問題まで含まれていて、ひじょうに様々な特性があります。全ての特性に対して満足できるような対応をするのは難しいのですが、少なくとも気持ちとしては、これら全てを意識しいく必要があるわけです。

多様な特性をもったユーザに目を開かせてくれたという意味では、ユニバーサルデザインは大きな成果をもたらしてくれましたが、実際に有効な活動をするためにはユーザビリティと連携していくことが必要だと考えています。つまり、目標意識としてはユニバーサルデザインを志向し、具体的な実践活動のための方法論としてはユーザビリティ工学の方法論を使うということです。ユーザビリティ工学には沢山の方法論があるので、ユニバーサルデザインを実際に行うときに、それらは大変有用なものになるのだと思います。

また、人の多様性については、特性の多様性だけでなく、人の置かれた状況の多様性についても目を向けることが必要だと考えています。たとえば、ユーサビリティテストという評価の手法は落ち着いていて比較的冷静な状態で行われてきましたが、実際の場面ではいつも冷静とはかぎりません。こういった多様な状況でも目標を確実に達成できる、ということは必要なことです。そういう意味では状況の多様性は無視できません。

我々が扱わなければならない対象は幅広いものです。いわゆる機器は当然ですが、他にも大規模システムとかサービスのことも考え、そういったものが置かれている状況や組織の要求、サービス機能なども考える必要がでてきたわけです。

そういう風に考えると、我々の対象はモノとコトの両方であり、モノとコトの合成、つまり人工物という意味で、Human Artifact InterfaceあるいはHuman Artifact Interactionということ、つまりHAIという考え方がこれからは必要になるのではないかと考えています。

以上のことを含めてユーザビリティの概念を考え直すと、人間中心設計というのは「多様な特性を持ち、多様な状況におかれている人々が、その特性や状況に適合した形で自分の目標としていることを、可能な限り有効に、効率的に、そして満足できるように達成できるようにするべく、人工物のデザインをすること。」といえるでしょう。

3.

ユーザビリティを推進している上で必要になるアプローチが人間中心設計ですが、この概念を明確にしたものが19999年に発効したISO13407という規格です。そこから出発して我々はどこへ向かうべきかを考えてみたいと思います。

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ISO13407の考え方にある4つのプロセス、すなわち利用状況の適切な把握にはじまり、要求事項の明確化、そしてデザインの作成を経て評価にいたる流れをきちんと実施し、各プロセスの間のトレーサビリティをきちんと最後まで維持していくことが大切だといわれています。さらに、(1)ユーザの積極的な関与、(2)ユーザと技術の間の適切な機能配分、(3)デザインソリューションの反復(繰り返し設計のこと)、(4)多様な人材によるデザイン、の4つが大事とされています。また、その後の関連する規格文書では、利用状況の把握から評価に至る四つのプロセスだけではなく、製品のライフサイクルそのものにも着目してものごとを考えることにもなっています。ISOの一つHuman System Lifecycleでは、コンセプト立案〜設計〜製造〜使用・サポート〜廃棄までを考えています。最近ではこういう形で人間中心設計を考えるようになっています。人間の生活において、ある人工物が適切に使われるためにはモノを作るだけではなく、サポートなどのサービスも必要だし、使い終わった時にはその廃棄のしかたも重要なわけです。つまり「ゆりかごから墓場」まで、その中でユーザビリティを考えることが必要です。そういう意味で人間中心設計の究極的な目標はなんだろうというと、やはりQuality of Life(人間の生活の質の向上)ではないかと考えています。では質が良いとはどういうことでしょう。やりたいことがあってそれを有効に効率的に良く満足できるようにやることは、質的に良い生活の一部を構成するものです。その他にも人間関係とか穏やかで和やかな家庭を持つとかが大切なわけで、モノだけで質的に良い生活ができるわけではありません。でも、その中で、少なくても人間と人工物との関係では、買って良かった、使って良かったといったようなことが必要といえるでしょう。自分の実現したい目標に適合していて、しかも使ってみたら分からないところがなく、すらすら使えた、という人工物を提供できることが目的といえるでしょう。しかし、そうしたことは買ってすぐにはわからないかもしれません。分かるためには一ヶ月とか半年とか時間がかかることもあります。そういったじっくり取り組むユーザビリティ、これを長期的ユーザビリティといいますが、こうした観点も必要になるでしょう。

これからの課題としては、人間の特性や状況の多様性のどこまできちんと対応できるのか、という問題がありますし、また先ほど「可能なかぎり」と言った通り、やはりどこかにクリティカルマスというものもあります。この限界をできるだけ拡張していくための努力も必要でしょう。また、ユーザビリティは作り手だけの問題ではなく、使い手ももっと積極的にモノづくりに関与し、たとえば作り手にたいして適切なフィードバックを与えていくことも必要になるでしょう。こうした検討課題は、我々のNPOが指向していくべき方向性と考えています。

さらに大事な点は、産業界の底力の強化に繋がるということです。ユーザビリティというのは売れるものを作ることにつながります。これまで新機能や多機能をめざしてやってきて、その結果、残念ながら使いにくいものがたくさん出来てきてしまいました。そういうことへの反省が出てくるべきでしょう。そうした商品は基本的には売れませんし、売れてもユーザから不満がでてきます。こうしたことは開発コストの無駄です。そのお金があるなら人間中心設計を取り入れて、本当に意味のあることだけをやればいいのです。それに集中すれば売れるものができて、ひいては企業の体質強化にもつながるでしょう。ここにも我々NPOの目標の一つがあります。最初に利用状況の把握をするところからきちんと出発しないとだめなのです。最近は上流工程でフィールドワークを行ってユーザの要求を的確に把握しようとする活動もあり、非常に好ましいことと考えています。これは本質的な価値としてのユーザビリティの再認識につながり、開発投資の有効な利用にもなるわけです。

4.

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アメリカにはUPAという組織があり、欧米や中国などで世界的に活動しています。日本ではHI学会のユーザビリティ専門研究会(旧ユーザビリティ談話会)がありますが、学会活動としてはできることに限界があります。そこで従来の学会とは少し違ったNPO法人という形で活動するのが良いであろう、活動しやすいであろう、ということになったのです。最近では、ユーザビリティ活動の範囲が本質価値の部分にまで及ぶようになり、その対象も機器から大規模システムも含まれるようになってきました。全国の自治体のWebサイトのあり方なども研究されていますが、今後は自治体の行政サービスそのものも検討すべきと考えられるようになってきました。またその視野も設計プロセスだけでなく、その後のユーザサービスも含む必要があるという風に変化してきました。

ユーザに対してはユニバ−サルデザインの影響を受け、多様な状況における多様な特性をもったユーザを考える、というように変化してきました。こうした意味で、現在の、そしてこれからのユーザビリティ活動は、以前のユーザビリティ活動からはかなり変化したものなのです。

新しい活動が必要ですから、今までのボトムアップ的な自助努力だけに依存していると限界があります。日本中のユーザビリティ関係者、産官学そして民、そして関連諸学が有機的に連携し、新しい価値観としてユーザビリティというものを日本人の脳裏に焼き付ける必要があるのです。これが、ひいては日本人の生活水準の向上につながり、産業界の活性化に繋がるであろうと考えています。

そのためには皆さんのご協力が必要です。

このNPO法人には、日本のユーザビリティのコアなメンバーのほとんどが既に参加、ないし参加しようとしています。これはめずらしいこと、すばらしいことです。しばしば派閥的に組織ができてしまうことがありますが、ユーザビリティに関してはここ一つに集約しているといっていいでしょう。ただ人工物を作ったり提供したりする関係者だけがやればいいというものではありません。民の関与も大事です。日本中のみなさんが自分の立場から人間中心設計に関与する、ということに尽きるのです。

我々も努力いたしますが、皆さんも是非、国民的な規模で我々の活動を支援していただきたいと思っている次第です。

以上です。どうもありがとうございました。


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