組み込み技術者のためのユーザビリティ基礎講座

はじめに

ユーザビリティすなわち利用品質の向上にむけ、ユーザセンタードな姿勢で取組むことの重要性とその方法論の一つとして「ガイドライン」が有効であることをこの連載で述べてきた。第4回は、システムの仕組みが伝わり、ユーザにとって分かり易いシステムへと仕立てていくために効果を発揮する「デザインガイド」(第1回「ガイドラインの定義と位置づけ」表2 参照)を中心に解説する。

1. 見易い、分かり易いシステムとは

1-1. 本質的な使いやすさと実効的な使いやすさ

 

「ユーザビリティ≒使いやすさ」と一口に言うが、その実態は2重構造(*1)(図 1)となっている。基本的な知識、理論により構築できる「本質的な使いやすさ」と、ユーザの利用実態情報を活用することで効き目を発揮する「実効的な使いやすさ」の2つだ。前者は、人間の特性に対応する基本的な使いやすさの実現であり、システムの部分的な業務効率が確保され、主に、判りやすさ、扱いやすさの獲得が可能となる。後者は、業務の特性に即した使いやすさの実現であり、システム全体の業務効率が向上し、設計の省力化や様々な利益向上などのビジネス効果を生みだす。

 

図1

図1:使いやすさの2重構造

 

2つの使いやすさの内「本質的な使いやすさ」はいかなるシステムにおいても必須の検討項目であり、この構築にこそ「デザインガイド」が有効となる。

 

1-2. 一貫性があっても、フィードバックが適切でも

 

分かりにくい設計がルール化され一貫性を持っても意味はない。例えば、デジタルカメラのシーン設定機能は現在どのメーカーも10種類から20種類を超えるシーンを搭載している。従来からのシーンをカメラ上面のダイヤルにアサインし、そこから溢れたシーンは階層の深い設定用GUIライブラリーで操作するように設計されている。確かにGUIライブラリーの操作性としては一貫しているが、シャッターチャンスにすばやく切り替えたいシーン設定機能をアサインしてもユーザには分かりにくく利用品質は著しく低下する。(参考資料)

 

参考資料

参考資料:GUIライブラリーとしての一貫性はあるが・・・

 

また、銀行のATM装置に組み込まれている注意ガイダンスでは、通帳やキャッシュカード、現金の取り忘れ防止のための警告表示器が点滅し「取り忘れないようにご注意ください。」などの音声メッセージがフィードバックされる。一貫してあるタイミングでこの注意ガイダンスはフィードバックされるが、忘れる人というのは、そのガイダンスそのものに気が付かない。せっかくのフィードバックを気が付かせるには何か工夫が必要である。

2. 効果を発揮するガイドラインとは

2-1. 実用的なガイドライン

 

専門家に有効なガイドラインは原則とか指針と呼ばれることが多く、汎用的に活用できるよう抽象化され解釈の範囲を広げられるようになっている。とまれ、原則論は一般の設計者には役立たない。もちろん、考え方の理解や気づきを促し、初心者を啓発するには大いに役立つ。

 

実務者に有効なガイドラインはマニュアルと呼ばれる。マニュアルは絶対的なルールであり、必ず守らなければならない。しかし、直面している当該商品にのみ有効で活用可能な期間は短い。代表的な例としてはCI(コーポレート・アイデンティティ) マニュアルやVI(ビジュアル・アイデンティティ)マニュアルがある(図2)。VIの最も強力なツールである名刺のデザインにもルールがあり勝手な変更は許されない。しかし、会社の方針で取得した資格を表すマークを追加することになって当初のデザインルールが守られなくなるケースは良く見かける。このためマニュアルには一意にルール化すべき項目と許容範囲を提供すべき項目などに分けられる場合もある。

 

図2

図2:VIマニュアル

 

さて、これらのマニュアルを唯一、無視して良いとされるのはデザイナー本人である。というよりも新しい媒体(ホームページなど)が出現すれば、新たなルールを作らなければならず、デザイナー自身が扱う場合はマニュアルは要らないことになる。創作者ならマニュアルは不要とはどういうことであろうか?デザイナーは目の前にある名刺をデザインしたのではなく、考え方をデザインしたのである。考え方、方針、コンセプト、つまりはその会社が伝えたい「コト」をデザインし、その出力形態の一つとして名刺があるに過ぎない。考え方さえしっかりしていれば、描かれる「モノ」が何であっても、そこから受ける印象に差がでることはなく、結果としてアイデンティティが保たれることになる。従って、マニュアルというガイドラインはこの考え方を理解していない他の制作者に依頼する場合に必要となる。

 

実際に役立つガイドラインを目指すためには、それが誰のためのガイドラインか、何のためのガイドラインなのか、直面する問題点を解決するためか、将来に備えるためなのか、などについて作戦を立てる必要がある。また、そのガイドラインを活用する側のスキルアップとともにガイドラインの質やレベルを変えていくことも重要だ。実用に耐えるためには読み手の当該分野のスキルに見合うガイドラインが必要になる。

 

2-2. ガイドラインの設計と運用

 

筆者が経験した2つのガイドライン事例を挙げる。

2-2-1. 失敗事例「航空チケット予約システム」(*2)の詳細すぎたガイドライン

このシステムの画面製造は多くのプログラマによる協同ワークが前提となっていた。参加している事業所数が多く指揮系統も複数なので、説明をしなくても寸分違わぬ画面デザインが成立するようなガイドラインを用意することになった。画面設計の考え方に加え、代表的な5つのタイプに分類して設計寸法を細かく規定した。開発環境であるVBの各コントロールプロパティに入力すべき値を定めた製造用ガイドライン(図3)と、このガイドラインに沿って作成したサンプル画面を20画面ほど付けて関係部署へ配布した。試作が出来上がり各画面を確認したところ、サンプルとは似ても似つかぬ画面が多数製作され、デザインの考え方がまったく理解されず、ガイドラインはその効力を発揮しなかった。製造工程の遅れを取り戻すためのツールとしても期待されたが、一画面を作成するのに要する準備(ガイドラインを理解する)工数が多く要るという印象を持たれ、ガイドラインを誰も見ようとしなかったことにより、結果としてバラバラな画面となった。この事例では現場のマネージャからの要請があって数値での規定一覧を提供したが、その運用については何もアイディアがなく、ただ、ガイドラインを配布しただけだった。ガイドラインを確認する工数がない訳ではないが、納期を抱えて焦る現場の設計者には導入時の負担感だけが大きくなり、彼らへのフォロー対策がなく、このガイドラインの場合は運用レベルでの配慮を欠いたものとなった。

 

図3

図3:製造用ガイドライン

 

2-2-2. 成功事例「半導体生産管理システム」(*3)での概念的ガイドライン

このシステムはクリーンルーム内に設置されたタッチパネル式のモニターを、役割別に3階層の作業者が24時間3交替で操作し200〜300工程に及ぶ半導体の製造プロセスを管理するものである。装置群の稼動状況や詳細の業務指示は同じ画面を通じてオフィス内から作業者へ提示され、作業者から業務センターへ様々なメッセージが飛ぶ。過去の失敗を繰り返さぬよう、この事例では設計方針をできるだけ多くの現場リーダに伝えることを目指した。規定したのは、この画面がどのような考え方で設計されたかという概念であり、レイアウトを揃えるという原則の制定と、その揃え方を説明したガイドライン(図4)である。先の例と同じ開発環境であったが、どのような画面デザインを仕立てるべきなのか、という仕上がり状態を伝えるように心がけた。そして、何より効果を発揮したのは現場リーダへの説明を重視した点である。ガイドラインとして用意した資料は基本の画面寸法を示したA3資料が3枚で、後はどのようなプロセスでこの開発が進み、情報デザインの意図や、何故レイアウトを揃える必要があるのかについて2日に渡るセミナー風の説明会を開いた。50画面を越えるサンプル画面や操作性を確認できるプロトタイプなども用意し、フィードバック作法も含めて操作方法の概念を伝えることに注力した。その甲斐あって、情報デザインの意図が理解され、サンプルとまったく同じデザイン寸法ではないが、残る数百画面のデザインレイアウトの概念は統一され、見た目の統一感および操作の一貫性は保たれた。本事例は先の事例を上回る複数の協同体制下にあり、筆者が今までに経験したどのシステムよりも大量で複雑な情報を扱う巨大な生産管理システムであったが、稼動後10年を経た現在も尚、GUIの方針変更や手戻り工数を起こすことなく稼動している。

 

図4

図4:概念的なガイドライン



 

2つの事例を通じて判るように、ガイドラインはその開発体制下で、最も効力を発揮できるようその設計方針を参加者全員に確実に伝わることを目指さなければならない。

3. デザインガイド項目

ガイドラインの効力と運用の重要性について述べたが、具体的な事例について代表的なものを紹介する。ここに紹介するデザインガイドは最も一般的なもので汎用性も高いが、個々の紹介で述べるように、開発現場での調整を必要とする。知見として獲得した上でそれぞれの開発現場で活用し、開発毎の条件や制約に合わせてアレンジし、その結果、情報を回収しさらに知見として蓄えていくような開発へのフィードバックサイクルを確立すると良い。尚、第1回に解説された12 の概念に沿って該当するデザインガイド事例を掲載した。デザインガイドの記述がない概念は先に述べた「実効的な使いやすさ」を主に構成する部分で、ユーザの利用状況やタスク分析など、デザインガイドでは補完し難いユーザビリティの検討項目ということができる。この部分については別途、機会を設けて説明したい。

 
  • 3-1. ユーザタスク適合→タスク分析の実施
  • 3-2. ユーザ期待適合→ユーザ利用状況の把握
  • 3-3. 適切なユーザ補助→ユーザ利用状況の把握とタスク分析の実施
 

3-4. 必要なものを必要な時に表示

3-4-1. インストラクションメッセージ

第2回にて紹介されたインストラクションメッセージ(第2回「操作や表示の一貫性」図9 参照)は、 UI上のガイダンスメッセージを設計する際に有効な考え方である。ユーザはその機能と接する際に、本来はある目標を達成しようとして取り組んでいる。その目標を達成するためにやむなく機械との対話を強いられていることが多く、操作上の戸惑いやトラブルが生じた際の誘導手段が必要となる。

 

何か問題が生じたら、まず第1に「何が起きたのか」「どんな状態なのか」を的確に知らせることが必要だ。この情報によりユーザはシステムの状態を把握することができ、不安にならず落ち着いた対応が可能となる。そして、次にどうすれば良いのか、どこに連絡するべきかなどの対応指示を提供するとよい。

 

こうしたメッセージの行数は多くても2行までとし、可能な限り短く簡潔明瞭に表現する。表現の中ではキーワード(必要な情報)が目に付くようにすると良い。文章は肯定表現を用い、素直に理解できるようにし、特に二重否定は行わない。また、読み方によって複数の意味に捉えられる表現はしない。

 

3-4-2. 操作工程の表示

銀行の振込み操作やオンラインショッピングの購入操作など、手順を踏む操作の場合はユーザの操作行為の全体像と現在の操作工程(図5)を知らせると良い。機能が多くシステムが複雑になると階層構造が深くなり、ユーザは自分がどの操作を行っているのか解らなくなる。また、ユーザは様々な思考の中で操作しているため、作業の終了時間や残りの作業量が判らないと他の業務に支障をきたすのではないかと不安を抱く。こうした不安感は誤操作を誘発する元となるため、結果として目的の達成が困難となる。操作工程を表示することで、こうした問題を未然に防ぐことが可能となる。

 

図5

図5:行程表示

 

3-5. 見やすい画面

3-5-1. 文字サイズ(図6)

建築ベースの印刷文字に関するデザインガイドである。IT機器向けの実用的な文字サイズに関する研究は遅れていて、ディスプレイ用の文字サイズや商品本体に印刷されている「ON/ OFF」の文字サイズなどのデザインガイドは少なく、現状では各企業内で独自に分析を行っているケースが多い。言い換えればこうした部分が企業競争の範疇に入ってきていると捉えるべきだ。

 

図6

図6:文字サイズ

 

3-5-2. 文字数、行間

一般に新聞の文字組みが文章を読む際の指標として参考にされることが多い。一昔前の新聞の文字数は1行14文字であった。最近は書体と共に改良され1行11文字(日経新聞)となっている。また、電子メールのデザインガイド(*4)では1行32文字を推奨しており、一般書籍の場合、1行に収まる文字数は概ね30字から40文字ぐらいまでを推奨する資料が多い。行間に関する明快な推奨値はないが、ベタ組みをしてしまうと行が詰まって見え、非常に読みにくくなる。日本語では文字サイズの60%〜80%(*5)の行間を空けると読み易くなる。

 

3-5-3. 文字サイズの種類

情報の構造化に合わせてその内容を表す文字サイズを変える。タイトルは大きく、中項目は少し大きく、本文は標準サイズで。都合3種類の大きさの文字を用いる。これ以外は原則として用いない。サイズ種類が多いと情報がバラバラに見えるし1種類ではすべて同格の情報となり理解しづらい。必ず3種類の文字サイズを用い、どの情報に適用するかを考える。このことは情報そのものを3種類に分けて考えることにつながる。3種類に分けることがベストではないが多くの情報をまず大まかに区分けして見る、そこが分かり易さにつながる。

 

3-5-4. 線の太さの種類

線の太さも3種類用いる。どの情報とどの情報の関係が近くて、別の情報とは関係が遠い、というように、文字のサイズ違いと同様、情報の構造を確認するきっかけとなる。たとえ計表の区切り線でも罫線の太さを変えると、縦罫を優先するのか横罫を優先するかが明確になり、情報を伝え易い表組みができる。

 

3-5-4. アイコン:デノとコノとディファレンス(図7)

GUIには欠かせない機能伝達パーツとしてアイコンがある。アイコンは機能を起動するトリガーなので、的確に意味が伝わらなければならない。アイコンを設計するにはデノテーションとコノテーションを十分に考察することが重要だ。デノテーションとはアイコンの絵柄そのものが理解できるかどうか、コノテーションとはその絵柄が意味する内容が理解できるかどうか、この2つの観点でアイコンを検証すると常に判り易いアイコンがデザインできる。また、アイコンにはもう一つ重要な表現要素がある。それは「ディファレンス:違い」を明確にすることだ。例えば情報を発信するアイコンと情報を受信するアイコンを作成する際に、情報は「円筒+書類」発信は「外へ向かう→」受信は「内に向かう←」の組み合わせにしようと考えたとする。発信と受信の違いを矢印で示すことがたとえ正しい表現手段であったとしても、もし、矢の先が小さくデザインされてしまうとその違いを見分けることができない。この「違い」を明確に見せることも重要である。

 

図7

図7:アイコン「情報の発信・受信」

 

3-6. わかりやすい用語

3-6-1. 開発用語を用いない

技術者が自らのノウハウを誇るように命名する機能がある。その代表例が駅の改札に設置されている「自動精算機」である。この場合の「自動」は今まで駅員が都度対応していた精算業務を「自動化」したものだ。しかし、この機械に向かうのはユーザであり、ユーザにとっては操作の手間が増えただけで切符を精算するという目的に対しては自動でも便利でもない。駅の現場では結局この機械の存在がユーザに伝わらず、最近では「乗り越し精算機」とか「のりつぎ精算機」というようなユーザ側から見たサービス名称に置き換わっている。(図8)

 

図8

図8:開発用語を用いない

 

3-6-2. メッセージと機能ボタン名称を対応付ける

あるメッセージに対する肯定的な意思表示をする際に「OK」とか「はい」「確定」「実行」という汎用的な文言のボタンを用いることがある。しかし、例えば「〜を送信してください。」という動作指示メッセージに対しては「送信」という名称のボタンを用意することが望ましい。これは、言葉の持つ汎用性が曖昧さも併せ持つため、確実に送信機能が実行されるかどうかが解らず困る場合があるからである。

 

3-7. 画面配色およびデザイン

3-7-1. 最初の画面設計時に色を用いない(図9)

色を見ると様々な印象を受ける。寒色系にはクールで精悍なイメージを、暖色系には優しくて穏やかなイメージを誰しもが感じる。従ってその感覚を活かして色に意味を持たせることが多い。信号機を見れば色に合わせた意味合いを理解することができる。しかしながら、すべての人は加齢と共に視力が衰え、また、かなり高い確率で色覚に異常を持つ人が存在する。もし、色だけに意味を持たせた情報の提示を行うと高齢者や色覚異常者には意味が伝わらない場合がある。そこで、最初に画面デザインを行う際は色を用いず、できれば白黒で、エリアの大きさ、形状の違いや空白を利用し、情報の構造化に合わせてGUIを設計する。その上で、最終的に最も効果のあるところに色を施すと良い。また、健常者であっても色数が増えれば覚えられず、あるいは見分けることができなくなるので色はできれば5色程度に留めるとよい。

 

図9

図9:色だけに意味を持たせない

 

3-8. 簡素で明確な操作

3-8-1. 人体寸法(図10)

人体寸法は古くから人間工学の基礎的なデータとして様々な開発に活用されてきた。標準的な人体寸法(*6)の他に5%タイル値(背の低い人の数値)95%タイル値(背の高い人の数値)などのデータが整備されている。制御パネルの設置高さ、自動車のインパネレイアウト、銀行ATMのタッチパネル操作設計など、各操作時の姿勢や視線の軌跡を予測しながら適切な設計寸法を検討する。携帯できるIT機器の場合なども手のひらや指の長さ、特に輸出商品を扱う場合には各国のローカライズデータを参考にすると良い。こうした情報を元に生活シーンでの様々なユーザの姿勢や行動を予測し、設計寸法を検討する。

 

図10

図10:人体寸法

 

3-8-2. 視野角(図11)

人体寸法のデータに人間の視野角データを組み合わせるとGUI設計はもとよりデイスプレイ周りのスイッチレイアウトに対するヒントも見えてくる。前述の現金の取り忘れ防止用LEDは人間の視野角の範囲(視覚表示器の最適視認範囲)外に配置されていたために気が付かないという現象を起こしていた。人が真剣に集中して見つめている場合は本当に狭いエリアしか見えていない。

 

図11

図11:視野角

 

3-8-3. とにかく揃える(図12)

文字サイズ、書体、色、形状、レイアウト順、情報の例示順などなど、あらゆる要素を「揃える」ことが重要である。とにかく揃えることから始まる。次に必要な要求に従い、文字サイズが変更され、レイアウトが変更される。その際に必ず理由・根拠を説明できるようにする。

 

図12

図12:とにかく揃える

 

3-8-4. レイアウト順序(図13)

人間がある情報を理解しようとする場合、左から右へ、上から下へ情報を追いかける。これは人間が持つ認知特性の一つと言われる。従って、情報を順番に見せたい場合や、ある手順を有する設定操作などの場合にはこの特性を活かしてレイアウトすることが望ましい。

 

図13

図13:レイアウト順序

 
  • 3-9. 一貫性→第2回参照
  • 3-10. フィードバック→第3回参照
  • 3-11. 間違い操作への適切な対応→ヒューマンエラーへの対応
  • 3-12. 異常状態からの復帰→ヒューマンエラー、ヘルプガイダンス

4. 設計用デザインガイドの事例

デザインガイドは「活用する」ことが目的であり、同じ商品、同じ開発環境であっても企業文化や事業所の方針によりその姿は異なる。デザインガイドは担当者が自分達の部署で使えるように考案し、目の前のスタッフに活用させて、常に改善すべきものである。以下にデザインガイドの抜粋を示すが、概ね掲載すべき項目は共通しているものの、詳細に渡る記述は部署によって異なり、設計数値目標や詳細のスタイルガイドなども、扱う商品や情報の質によって変化する。従って、ここに紹介するデザインガイド項目には、さらに詳細の記述が通常用意されているが、当該部署の方針に影響を受ける内容であるためここでは割愛する。

 

4-1. 標準的なUIデザインガイドライン

4-1-1. 全般的な項目

4-1-1-1. システム環境
  • ・基準となる画面を決める
  • ・ユーザがカスタマイズ設定できるようにする
  • ・書体は1種類とする
 
4-1-1-2. 言葉遣いおよび項目名称
  • ・漢字と送りがなの使い方に気をつける
  • ・メッセージとボタン名を対応付ける
  • ・用語は一般的な言葉を使用する
 
4-1-1-3. レイアウト
  • ・レイアウトする前に並べる順番を考える
  • ・ウィンドウは周囲に余白を取る
  • ・レイアウトする時は揃えるのが基本
 
4-1-1-4. ボタン
  • ・ボタン名称はシンプルにする
  • ・ボタン名称の表示は1行中央揃え
  • ・使用できるボタン、できないボタンを区別する
 
4-1-1-5. 入力部
  • ・入力形式はシステムを通して一貫させる
  • ・データフィールドは適切な初期値を表示する
  • ・可能であればキー入力を避け選択入力させる
 
4-1-1-6. その他表示
  • ・処理に時間がかかる場合は適切な待機表示を行う
 

4-1-2. GUI部品(ラジオボタン、コンボボックス)の使い方

ラジオボタンは利用頻度が同じ選択肢を常に見せる場合に用いる。コンボボックスは、選択肢の中の一つを定常的に選択し、他の選択肢を選ぶ頻度が少ない場合に用いるとよい。単純なスペース効率だけで使い分けてはならない。

5. まとめ 〜ガイドラインの今後〜

5-1. 分かりやすさにつながるUI設計のコツ

5-1-1. 理由なき"UI"の禁止

組込み系エンジニアは従来より機能設計に責任を負い、確実に動く、より的確に設計することを目標にしてきた。従ってUI設計の段階になると、UIぐらい自分の好きに設計したい、というのが本音である。機能は画面から制御するので画面デザインはある意味で機能設計の延長ということもできる。だからといって設計者の感じるままに作り込んでいいものではない。そこで最も原則的なデザインガイドを設定するとすれば、「理由を説明できること」としておきたい。UI設計のどんな小さなことにも設計した「理由」を述べること。なんとなく決めたUIがあってはならない。どんな理由でも良いから、文字サイズ一つ、レイアウト一つ、必ず決定した理由を説明できることが大切である。

 

5-1-2. 3案比較の勧め

ユーザインタフェースは比較することによりはじめてその優劣が判断できるようになる。今後、研究が進みUIの優劣を定める客観的な指標が発明されるまでは、必ず複数案のUIを考案し適切なユーザビリティ評価を実施すればよい。その際に3つの案を比較することをお勧めする。2つでは違いは判っても、関係性は見つけにくい。3つを比較するとそれぞれの特徴やUI要素の関係が見え、そこから優良な方向が見えてくる。

 

5-2. プロセス毎のガイドライン

 

本稿では判りやすいシステム構築に有効なデザインガイドについて基本的なものだけを紹介した。前段で解説した「実効的な使いやすさ」を構築するためにユーザの利用状況情報も活用すれば、ボタンサイズにも意図的な違いが現れ、配置する場所も変化してくる。こうした個別の状況に対応できるデザインガイドは各開発セクションにて考案するとよい。

 

UI設計の実施例が増えるに伴い、設計プロセス以外でもデザインガイド的な取組みが効果を発揮するようになった。既にお気づきの読者もいると思うが、図8の写真Aをもう一度ご覧戴きたい。ユーザの問い合わせに辟易した駅員が「乗り越し精算機」という貼り紙を作成した。利用現場で見かける貼り紙には貴重な利用者のメッセージが込められていることが多い。この貼り紙から最も確実にそして手軽にユーザの利用品質に対する不満を確認することができる。

 

利用状況調査のガイドライン「貼り紙に着目する」

 

是非ともお試しいただきたい。

 

ユーザの利用状況調査が日常的になってきた現在、ユーザビリティ評価業務に至るまで各プロセス毎に有効なガイドラインの構築が必要だ。実施例を増やしながら効果的なガイドラインを目指していくとよい。

 

組込み系エンジニアに役立つガイドラインということでいくつか紹介をしたが、それぞれの開発事情は異なり、広範囲の読者に伝えようとすれば、個別の事例には当てはまらない内容となる。筆者のところにはガイドライン作成の依頼が絶えない。しかし、最初にガイドラインありきではない。利用品質の高い商品開発に定常的に取り組めるようになって初めて、後輩がたどるべき道ができ、そしてガイドすることが可能となる。そのためにも、まず、オーソドックスな人間中心設計プロセスを体験し、確実なUI設計を手がけることが重要だ。そこから各企業文化に馴染むガイドラインの有り様が見えてくる。ガイドラインは受け手がいて成立するものだ。ガイドラインは消耗品で、その受け手が成長することによって本当の役割を終えるものである。

 

(第4回・おわり)

 
  • (*1)行政の情報化とユーザビリティ 〜公共ホームページの次へのステップ〜
    行政機関向け「第8回行政情報化セミナー」(主催:株式会社HBA)(2004年12月)
    事例に学ぶ組込みユーザビリティ設計の実際
    組込みシステム開発技術展 専門セミナー ES-13 「注目集める組込みシステムのユーザビリティ」(2005年7月)
    組込みシステムを評価対象としたユーザビリティ評価演習
    文部科学省「知的クラスター創成事業」札幌ITカロッツェリア
    ユーザビリティ・ソリューション開発研究プロジェクト「ソフトウェア技術者のためのユーザビリティ工学講習会」演習コース4 テーマ(2005年11月)、ほか
  • (*2)GUIデザイン・ガイドブック
    日本人間工学会・アーゴデザイン部会 スクリーンデザイン研究会編
    第II部 事例編 p.215〜p.229(海文堂)
  • (*3)半導体生産管理システムのユーザインタフェース事例
    計測自動制御学会:ヒューマン・インタフェース部会
    第12回ヒューマン・インタフェース・シンポジウム論文集 p537〜p542(共著)
  • (*4)RFC (Request For Comments) 文書番号:1855 FYI (For Your Information)
    文書番号:28 ネチケットガイドライン 2.1利用者のガイドライン 2.1.1電子メールのガイドライン
    インターネット技術特別調査委員会(IETF)
    ネットワーク責任利用作業部会(RUN; Responsible Use of Network Working Group)
  • (*5)レイアウトの手法 読みやすさの工夫−行間と字詰め−
    山之内総合研究所 わかりやすいマニュアル作成のための実践テクニカルライティングセミナー テクニカルライティングの知識 第6部補足
  • (*6)人体計測データベース
    社団法人人間生活工学研究センター

HCD-Netで人間中心設計を学ぶ

HCD-Net(人間中心設計推進機構)は、日本で唯一のHCDに特化した団体です。HCDに関する様々な知識や方法を適切に提供し、多くの人々が便利に快適に暮らせる社会づくりに貢献することを目指します。

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