HCDコラム

ポケG騒動を機に考える"善隣的"デザイン

スマートフォン向けゲームアプリ「Pokemon GO」(以下「ポケG」と略す)にまつわる記事が新聞を賑わしている。歩きスマホをする人が増えた、ゲームに熱中するあまり私有地内に不法侵入してしまった、などの悪い話が目立つ。これらは危険行為または軽犯罪であり、やってはいけないことである。しかしながら、歩きスマホ問題がスマートフォン登場以来いまだに解決できていないことからして、今回のポケG騒動も、道徳教育や危険性の周知では解決は困難であろうと考える。
 この問題をUXデザイン的に考えてみよう。歩きスマホをしている人は歩いている時間も惜しいほどにゲームやチャットが楽しいのであろう。ならば「立ち止まって使うとさらに楽しくなるゲームやチャット」を提供できたなら、歩きスマホをする人はいなくなるのではなかろうか?前例として公衆トイレの小便器に貼る射的シールがある。「的があるのなら命中させたい」というゲーム感覚を喚起することで、ユーザーを無意識のうちに「公衆トイレをきれいに使う」という善隣的行為に誘導している。
 また、やむをえず禁止を明言する場合であっても、禁止を不快に感じさせない工夫をすることも考えられる。たとえば伊勢神宮では敷地内でのポケG使用を禁止するにあたり「神宮の中では生き物を捕まえることはできませんし、人の入れない場所もあります。森の中にいるポケモンは捕まえずに、できればそっとしておいてあげてほしい」とコメントした。リアルな生き物とゲーム内の生き物をあえて同列に語ることで、ゲーム禁止という不快な体験をうれしい体験(この場合は神様への敬意)に転換したといえる。
 このような、UXデザインによって人の行動を変容させ社会課題解決を図る取り組みを私は「善隣的デザイン」(Good Neighborly Design)と名付けたい。使う人を"善き隣人"へと変えるデザインという意味である。善隣的デザインは、まず意識を変容させてから行動を変容させる取り組みと、無意識のうちに行動を変容させる取り組みのどちらであってもよい。大事なことは、行動変容に至るプロセスがうれしい体験としてユーザーに認識されるようデザインすべき、ということである。
 UXデザインは必ずや社会に貢献できると確信している。もっと多くの人々(特にゲームやスマホのメーカー)がUXデザインによる社会課題解決に取り組むことを切に願う。


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