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第5回「チェックリストを用いた評価」

カテゴリ: 人間中心設計とは

掲載日: 2006年09月19日

はじめに

前回まではガイドラインの具体的な内容について解説してきた。今回は、そのガイドラインを基にしたチェックリストと、そのチェックリストを用い製品のユーザビリティを評価する方法について解説する。


1. 何故チェックリストを作るか

チェックリストとは照合を行う為の表のことである。言葉を変えれば、検討の抜け洩れを防ぐために必要事項を洩れなく列記したものである。発想法の一つにもチェックリスト法(Alex F. Asborn)というものがあるが、視野が狭くなってしまうとか先入観があるなど、発想の妨げになるものを解消するための良い手法である。組み込み系ソフトウェアの設計活動にも、チェックリストを使用した手法を利用すれば、使いやすい製品の検討がより効率よく行える。


ガイドラインは、設計者が利用対象者であり、実務で参照してもらうことを想定している。使いやすさを具体的に記述したガイドラインや、ガイドラインに基づいたGUI部品の素材集的な位置づけを持つスタイル・ガイドに沿って設計すれば、使いやすい製品が効率良く確実に開発できる。しかし参照情報として提示するだけでは、果たしてその内容がきちんと設計に盛り込まれることになるのかどうか、保証の限りではない。例えば、設計者の都合の良いように解釈されてしまうかもしれない。そこでガイドラインを基にチェックリストを作成し、設計活動の進捗に沿って設計の妥当性をチェックできるようにすることが重要である。


チェックリストをつくる目的は、使いやすさを確保するための方法を一項目ずつ導入可否判断できるような単位に分解整理し、ユーザビリティの達成度を合理的に把握できるような仕組みを提供することにある。チェックリストが無い場合には、設計のプロトタイプや試作機を使用し、都度、ユーザビリティ評価を実施することになる。精緻でかつ実際に即した受容性の確認という意味では、テスト・ユーザを用いたユーザビリティ評価は確実であり、最終的な要求充足の度合いを知る上で欠かせないものである。しかしプロトタイプや試作機を用意しなければならない。用意が可能な時期にしか評価を行えない点が欠点である。これに対してチェックリストを用いた評価の場合には、設計者が作り込みの中で適宜、都合の良いタイミングで評価することも可能である。柔軟で迅速なチェックには、チェックリストを用いた評価が便利である。仮にガイドラインやチェックリストが無い場合には、使いやすさを検討し作り込むための試行錯誤に時間がかかる。また設計者の思い込みで開発してしまったりする。このような状況を回避するためにガイドラインやチェックリストを作るわけである。


2. チェックリストの役割と有用性

以上のことから、ユーザビリティ・チェックリストの役割および有用性を整理すると、次のようになる。


  • (1) 使いやすい製品を作るために、設計の段階での検討の抜け漏れを防ぐ(設計の側面)
  • (2) 設計されたものが、ユーザビリティ上適切なものであるかを検証する(検証の側面)
  • (3) ガイドラインの適用率を把握することで、ユーザビリティ目標の達成度を知ることができる(成果指標としての側面)

(1)は設計ツールの役割を有するものであり、使いやすい製品を設計するために何をすれば良いか、設計者がチェックリストで確認しながら自らの設計を行う、という使用を期待している。ガイドラインが参照資料であるとすれば、まさに設計活動の中でチェックリストを使用することで、使いやすい製品を作るために必要なユーザビリティの要点を端的に知ることができる。また使いやすさの検討をよりスムーズに行える。(図1)


図1

図1:チェックリストの活用


この場合チェックを行うのは設計者である。従って、チェック項目の表現は、設計者が分かるような表現が望ましい。<操作に一貫性があるか>と問うただけでは抽象的過ぎて分からない。本講座の第2回で解説したガイドラインの内容を基にすれば、「機能の分類」や「優先動作」、「階層遷移の方法」、「表示形式」あるいは「ボタン動作の整合」などの対象に分解する。その上で、例えば設計者に対しては、<ボタンは5状態の動作を有しているか>のような設問形式とする(第2回の図6を参照)。設計内容に合わせた表現により検討の抜け漏れを防止すると共に、ソフトウェア完成前の自主点検(=セルフチェック)など、次で述べる検証時の有用性にもつながる。


(2)は検証ツールの役割を有するものである。検証には、前述の設計者によるセルフチェックと、ユーザビリティの専門家によるユーザビリティ評価がある。設計者が行うセルフチェックは、ユーザインタフェース(User Interface 以下UI)のソフトウェアが完成する前の最終チェックとして行われる場合が多い。セルフチェックの後に総合的な動作試験やテスト・モニターを使用したユーザビリティ評価を行う。ユーザビリティの専門家によるチェックの場合は、プロトタイプや仮リリースなどのソフトウェア毎に、チェックリストを使用しながら専門的な見地から評価を行うことを指している。ユーザビリティ評価として行うので、チェックリストはガイドラインの要求事項を反映したものでなければならない。これをガイドライン対応型チェックリストと呼ぶ。これに対してセルフチェックの場合にはユーザビリティだけを見るのではなく、製品の要求事項検討の中で合意された機能・性能などの導入内容も含めることがある。この場合を企画対応型チェックリストと呼ぶ。ガイドラインを基にしつつも商品の狙いや開発の条件を考慮した、より現実的なものとなる。(表1)


表1

表1:チェックリストの種類


セルフチェックを行うかユーザビリティ専門家のチェックだけにするかなどは、対象となる製品の重要度や開発規模を勘案して、開発プロセスの中で決定すればよい。


なお、セルフチェックの仕組みを採用することは、ユーザビリティに対する設計者の理解を増進し、社内にユーザビリティ意識を高める効果がある。但し、ガイドラインの目的や導入の趣旨が理解され、チェックリスト活用の方針が浸透し、チェックリストの使用が開発プロセスの中で正式な点検行為として位置づけられていることが前提である。従ってガイドラインやチェックリストの開発者は、開発に先立ち、実際に使用する設計者などの十分な理解を得ておくことが肝要である。


(3)は、(2)の検証ツールという側面をさらに進め、成果指標という風に捉えるものである。チェックリストがガイドラインを反映したものであれば、チェックリストを使用したユーザビリティ評価を継続的に行うことで、ガイドラインがどれくらい遵守され適用されているかが分かる。チェック結果をガイドライン適用率とかガイドライン遵守率といったようなプロセスの管理指標として活用することである。プロセスの管理指標であるから、製品間の品質の違いやプロセス改善を科学的なアプローチで行うことができる。


ユーザビリティ要求の導入や要求に基づく改善を製品の市場導入までフォローしておく仕組みの構築は重要である。チェックリストは評価ツールとしてではなく、プロセスとして捉えた方が有用性の高いものになる。