海外カンファレンス報告

  この会議には、以前は毎年のように参加していたが、最近はだいたい一年おきに参加している。今回はアジアで初めてとなる大会で、韓国のソウルで開催された。その決定の経緯を振り返ると、2011年にアジア各国のHCI関係者がACMによって北京に招かれ、そこでアジア地域のHCIの活性化という問題と2015年度の開催地のことが議論された。

  しかし、この時は東日本大震災と福島原発事故が起きた年だったためか、東京は最初から候補に含められておらず、北京とソウルとシンガポールが候補になっていた。結果的にソウル開催ということになった訳だが、トータル3000人ほどの参加者のうち、やはり現地の韓国の人たちが目立って多かった。会場はCOEXで、CHIのような大きな会議をやるにしても十分なキャパシティがあった。

  筆者は、Asia CHI Symposium(ACHIS)という枠のなかでKansei and Japanese Cultureという終日セッションを工学院大学名誉教授の椎塚先生と芝浦工科大学の大倉先生と共に主催した。20人ほどの参加者があり、午前中の発表では感性に関連した様々な議論が交わされた。午後はCOEXの地下にあるショッピング街にでて、各自の感性にヒットしたものを写真撮影し、それを会場でプリントし、テーブルを寄せた上に広げてKJ法を行った。午前中の発表でかわいいというテーマに関するものが4件あったため、かなりその方向に引っ張られた写真が多かったが、面白いとか、興味を引かれるといった写真も半数近くあり、それを見ながら議論を行った。

  ACHIS参加者は学会にはフル参加しない人が多かったが、筆者は最後まで参加してみた。色々なデモ展示を見たり、論文発表を聞いたりしたが、所感として、HCI分野では最高レベルの学会でありながら、実際の製品やシステム、サービスとして実用化されるものがほとんど無いことが(過去の大会においてもそうだったが)不思議に思えた。昔なら、Memex(現在のインターネットにおけるハイパーメディアの原型)を提唱したBushやマウスの発明者であるEngelbartなどは、研究の世界から実用の世界につながるような成果を出していたのだが、MITのメディアラボが第二期に入った1990年あたりからだろうか、どうも研究のための研究、ないしは面白い技術の開発しか行われなくなったように思える。いいかえれば、研究者にとってはレベルの高い学会に採択されて発表することは、被引用回数も増え、良い業績を積むことになり、昇進や転職にとって有利なことになるが、どうもそうした目的のための場と化してしまっているのではないか、という気がした次第である。つまり、マウスのホイールも、FacebookやTwitterなどのSNSも、Wikipediaも、スマートフォンも、ブックリーダーも我々が日常的に利用しているものであり、その社会的な意義は大きいのだが、これらは製品やサービスとしては提供されていても、その登場時にコンセプトを提示し社会的意義を論じたような学会発表が行われていないのは何故なのか、とても疑問に思った次第である。

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