HCDコラム

上海に住んでもうすぐ2年になる。普段の生活では、日本語はもちろん、英語が通じない。中国語のレッスンを受けたが、発音が難しい。「ワンタンをください」と店員に告げても、通じるのは10回に1回だ。

こんな時に活躍するのが、スマホアプリだ。レストランでは、テーブルに貼ってあるQRコードを読み取り、写真付きのメニューから料理を選択。料理が来たら、そのままスマホで決済すればいい。地図アプリは、地下鉄やバスの乗り降りを教えてくれる。シェアサイクルのアプリで自転車も手軽に使え、カロリー消費量まで教えてくれる。

言葉が通じなくても生活できる。外国人にとっての情報ユニバーサルデザインだ。たまに日本に帰国すると、慣れもあり、地図アプリなどは中国の方が使いやすいと感じる。中国の大手ネット企業は、GUIのプロトタイピングツールを自前で開発、活用している。アプリのバージョンアップのスピードも速い。競合や代替がたくさん現れるため、利用者の拡大に真剣だ。使い勝手がどんどん洗練され、異なるサービス間や実店舗との連携により、どんどん便利になる。
一方で、地下鉄の駅のバリアフリーやユニバーサルデザインには、不足を感じる。日本より施設は新しく、全駅にホームドアが設置されている。しかし、スーツケースやベビーカーを持ち上げて、長い階段を下りる人をよく見かける。街中では段差や数段の階段が多い。車イスで移動するには介助者が必要だろう。

人間中心設計とは、設計のプロセスであるが、哲学でもある。哲学を疎かにすると、市場経済の原理が働きにくい部分や、まだ働いていない部分に、効果が届かない。ここが中国の課題ではないかと感じる。一方で、すべてに効果を均等に届けようとしたり、リスクヘッジを優先しすぎると、さらに高い品質や付加価値を望む人が満足しない。ここが日本の課題ではないかと感じる。
これが正しいかどうかは分からない。ただ、日本と中国を比較することで、気づくことが多くなったことは確かだ。これを肥やしに、今後もよいデザインやサービスを心掛けたいと思う。


HCD-Netで人間中心設計を学ぶ

HCD-Net(人間中心設計推進機構)は、日本で唯一のHCDに特化した団体です。HCDに関する様々な知識や方法を適切に提供し、多くの人々が便利に快適に暮らせる社会づくりに貢献することを目指します。

HCDに関する教育活動として、講演会、セミナー、ワークショップの開催、 HCDやユーザビリティの学習に適した教科書・参考書の刊行などを行っています。