HCDコラム

突然ですが、先日、吸引力が売りの英国D社製コードレスクリーナーを購入しました。"いつでも" "すぐに"掃除をしたい!というのが私のユーザー要求で、コードレスがそれを満たしてくれると考えました。納戸から掃除機を引っ張り出してホースを接続し、コードを伸ばしてコンセントに差し込むという煩わしさが、私の掃除への意欲を阻害してきましたが、コードレスクリーナーなら覚悟を必要としないで掃除ができるはずです。国産でも良かったのですが、あえて値段の高いD社製を購入したのは、甲高い声のおじさんが社長だったテレビ通販会社の宣伝に乗せられたからです。いろいろなセールスポイントも実際に使って実感し、満足度の高いUXが得られました。そのうちの一つに充電の際もスタンドにセットしてそのままリビングにでも"飾って"おけるデザイン(外観)という点があります。国産のいくつかの製品は掃除機然とした見た目で"飾って"おくにはちょっと…という感じ。そうなるとやはり使わない時は、どこかにしまっておくことになり、"いつでも""すぐに"というわけにはいかなくなるのです。実はあまり外観デザインを気にしていなかったのですが、考えてみれば、これはかなり重要な非機能要求だったことに気づきました。

そんな体験から、D社の製品開発思想はどうなっているのかと興味がわき、いくつかのWeb記事を調べてみました。意外なことにD社にはデザイナーがいないそうです。同社のCEOは「エンジニアリングとデザインは一体であるという考えを社内に広げ、企業文化にしようとしている」そうで、それがイノベーションが起きやすい企業文化となっているというのです。これには痛く共感しました! 更に「若者のデザイン思考が生命線」とも。常に「解決したい課題は何か」と若者に問いかけることで彼らのアイデアを引き出して、モノづくりにつなげる企業文化が根づいているのだそうです。

デザイン思考もこれを導入して、新規事業につなげようという企業文化がなくしては、何も動き出さないと痛感しています。デザイン思考は、その名の通り「思考」ではありますが、文字通り"思考"のみで終わってしまっては、イノベーションも起こりません。D社のように、デザイン思考の「思考」を「試行」に移し、HCDのプロセスに本気で取り組もうとする企業文化、つまり、マインドセットが醸成されていなければ、新しいものを生み出すことはできないと強く感じます。

古い工業デザイナーである私は、まだ「人間中心設計」という言葉もない学生時代から、ユーザーの立場に立った問題解決のスキル(スキルというよりは根性?)を叩き込まれましたが、それをデザイナーだけの職能と勘違いして仕事をしていた時代がありました。従って当然のことながら、良好なチームビルディングができず、関係者の理解が得られないまま製品開発が行われていたように思います。しかしその後、HCDがISOで規格化され、更にここ数年ではさらにHCDと同様の問題解決プロセスを核とする「デザイン思考」が多くの組織に認知され、様々な分野にHCDが活用されるようになり、デザイナー以外の職種にもHCDに取り組む"仲間"が増えてきたことを非常に心強く思います。

先日公開された「HCD/UXなんでも相談室」を見るとまだまだ、HCD/UXが理解されていない現状もあるようですが、昔と比べれば隔世の感があります。HCD-Netの「プロたちのナレッジ共有の場」としての機能の下、ビジネス支援事業部では、HCD/UXDの開発現場への浸透やHCD領域に従事する全ての方々の活動を支援する"場"として多くの方々と共に様々な活動を展開しています。今後も皆様と共に切磋琢磨しながら、HCDを世の中に浸透させていければと思います。


HCD-Netで人間中心設計を学ぶ

HCD-Net(人間中心設計推進機構)は、日本で唯一のHCDに特化した団体です。HCDに関する様々な知識や方法を適切に提供し、多くの人々が便利に快適に暮らせる社会づくりに貢献することを目指します。

HCDに関する教育活動として、講演会、セミナー、ワークショップの開催、 HCDやユーザビリティの学習に適した教科書・参考書の刊行などを行っています。