HCDコラム

私が理事長に就任してから、早いもので3年の月日が経過しました。これまでの日々は、財政的な危機に陥りかけていた団体としての基盤を建て直すことを第一の目標に据え、個人的には「HCDのリーダーシップ」で重要な要素である「サーバントリーダーシップ(メンバーの持つ力を最大限に発揮できることを考えて、環境づくり等に邁進するリーダーシップのあり方)」を意識した活動だったように思います。たとえば、HCDに対するさまざまな領域からの期待に応えるべく、1人でも多くのリーダーを輩出することや各種の事業活動を下支えするための相談に応じること、そして、そもそもの縁の下を支えている事務局をしっかりとサポートすることなどです。

そのような中、昨今では、新たなリーダーの皆さん(新理事や新事業部長など)を迎え、さまざまな事業活動が活性化し、今後の団体の発展のための投資的な活動も視野に入るような機運を感じています。そこで今後は、これまでの団体としての環境面への注力を一層推し進めつつも、自身として注力したいテーマについても強く前面に推しだしながら活動の幅を拡げていこうと決意するに至りました。そのテーマとは、ずばり「HCDのマネジメント」といった領域の開拓・探究・実践です。ここでは、その具体的な活動を3つに分けてご紹介します。

1つめは、企業や団体のトップ層や経営層に対して、しっかりとHCDの付加価値を訴求していく役割を継続していくことです。「継続」と表現するのは、日常の仕事においてもこのような機会が急増しており、半ば使命感も芽生えるようになってきました。今年前半には、9月からスタートするデジタル庁の担当大臣に対して、数回にわたって「HCDの価値」をレクチャーしたり、ワークショップを行ったりする機会もあり、その反応に手応えも感じています。今後は、経営層へのHCDの訴求を実践・研究するビジネス支援事業部の活動との相乗効果を狙って、より一層マネジメント関係者へのHCD理解を促進したいと思います。

2つめは、企業や団体の組織全体にHCDの価値を普及していく手段として、全従業員や全職員を対象とした「HCDの基礎知識に関する教育活動」に貢献していくことです。こちらは、HCD専門家認定センター内での活動に端を発した「HCD基礎知識検定ワーキンググループ(旧HCD基礎知識認定ワーキンググループ)」の活動を加速化することで、HCD-Netにとっての第二の収益源となるような事業化を目指して参ります。また、HCDがもたらす価値を数多くの企業・団体・業界に訴求していくためにも、多くの関係者の方々と積極的に交流・連携・協業を模索していくと同時に、専門家の方々にとっての「知識体系(BOK:BodyOf Knowledge)」の開発にも貢献していきたいです。

そして3つめは、そもそもの「HCDをマネジメントする」ということ、すなわち「HCDマネジメント(Human
Centered Design Management)」という領域を解明していく活動そのものです。ここでは、私がこれまでに実践と研究とを繰り返しながら探究を続けてきた成果を、具体的な事例などを交えながら一冊の書籍にまとめることが目標となっていました。この過程では、黒須正明先生を始めとした諸先輩方からの指導と激励、推薦を受けて、HCDライブラリ第4巻『HCDのマネジメント(仮)』という形となって2021年度中には出版の予定です。本書では、HCDのチームを率いる方やHCDのマインドセットをもった組織を管理していく方を対象に、日々の実践的なヒントとなるような内容を目指しています。まさに「人間中心のデザインマネジメント」といったテーマを世に問うとともに、HCD領域の今後の発展に寄与できれば幸いです。

今後も、皆さんが個々のテーマを追求しながらも、会員相互が発展していけるような、まるで「探究と実践のプラットフォーム」としての団体となるよう、努力を続けて参ります。


HCD-Netで人間中心設計を学ぶ

HCD-Net(人間中心設計推進機構)は、日本で唯一のHCDに特化した団体です。HCDに関する様々な知識や方法を適切に提供し、多くの人々が便利に快適に暮らせる社会づくりに貢献することを目指します。

HCDに関する教育活動として、講演会、セミナー、ワークショップの開催、 HCDやユーザビリティの学習に適した教科書・参考書の刊行などを行っています。