HCDコラム

私はインテグリティ・ヘルスケアという医療スタートアップに所属しており、自社で開発・運用しているデジタルプラットフォームを活用し、製薬企業と共に患者向けの治療サポートアプリの開発を行っています。
顧客である製薬企業では、薬の治療効果最大化や新たな価値創出の手段として、デジタル活用やDXに取り組む企業が増えており、各社「患者中心」をスローガンに掲げサービスやアプリの開発に力を入れています。

ただ、そうして開発されたサービスやアプリは、現状ではあまり使われることなくクローズしていくものが後を絶ちません。顧客の中には、この失敗体験が自身の中に強く印象付けられてしまい、アプリを作ってもどうせ使ってもらえないからアプリは作らない!という顧客もいるほど。大きな予算と長い期間を経て作ったものが使われないと、そういった考え方になってしまうのも無理はないかなと感じてしまいます。

では何が問題なのか。
これまで実施したプロジェクトや初回のヒアリングで共有いただいた内容から、下記のような取り組みをしていることがわかってきました。

・企業として患者にやってほしいこと、医療的に良いことをしてもらうためのアイディアを起点にアプリを企画する
・アンケートやグループインタビューで困っている、欲しい、と言われたものに応えるようにアプリに機能を搭載する
・疾患患者数が少ないことから、対象患者全員のニーズを満たすように機能を開発する

以上のように、提供者目線で、機能ベースのアプリ開発になっており、HCDのような本当の意味での患者中心になっていませんでした。

医療や製薬業界では、HCDの考え方は浸透していないどころか、その言葉すら知らない人がほとんどです。そういった顧客に対して、いきなり方法論やあるべき論を振りかざしても受け入れてもらうことは難しいでしょう。(実際に失敗もしました。)
顧客からは「なぜ使われないのかがわからない」という声も多く聞かれ、まずはここを足掛かりに、今の取り組みの問題や必要なアクションを丁寧に説明していくことが必要だと考えています。
これを第一歩として、一つひとつ段階を踏みながら、患者を中心に据えたアプリ、サービス開発、そして、患者や医療従事者にとってうれしい体験の実現を目指して取り組んでいこうと思います。


HCD-Netで人間中心設計を学ぶ

HCD-Net(人間中心設計推進機構)は、日本で唯一のHCDに特化した団体です。HCDに関する様々な知識や方法を適切に提供し、多くの人々が便利に快適に暮らせる社会づくりに貢献することを目指します。

HCDに関する教育活動として、講演会、セミナー、ワークショップの開催、 HCDやユーザビリティの学習に適した教科書・参考書の刊行などを行っています。