HCDコラム

12年前に企業から大学に着任し、いろいろな授業・演習を担当してきましたが、12年間ほぼ変わっていない演習があります。3年生のプロジェクト演習という授業で、デザイン工学を学ぶ学生にとっては、重要かつ意義のある演習です。1、2年生で学んだことをベースに複合的に応用し、専門性を高める、自分たちで深く考えることが必要な演習といえます。変わらないと述べましたが、学部再編やカリキュラム変更などで多少取り組み方は変化してきました。現在は、卒業研究を担当する全教員が、各クォータ(全7回)を担当する授業となっており、私も前期2クォータ、後期1クォータに、それぞれ十数名の学生を担当します。演習の内容は教員の専門分野に関するもので、学生は研究室配属を希望する教員の演習を中心に複数履修することになります。今年も5月29日に第1クォータが終わりますが、今期の様子を紹介します。

私の演習では4年ほど前から「近未来社会におけるUXデザイン提案」とし、未来のシナリオ提案に取り組んでいます。取り組む内容は毎年調整していますが、5年間このテーマを続けているのは、本質的な気づきが多いと感じているためです。未来というテーマだけでは大きすぎるので、3つの対象領域を決めて4名程度のグループにわけています。はじめは各領域の現状調査/分析、技術動向調査、課題抽出などをグループで協力して徹底的に洗い出します。HCDプロセスやデザイン思考の最初の段階とほぼ同じですが、技術やインフラ、そして実現しているサービスなども調査します。ここからユーザーニーズの探索や定義、問題解決へ進みたくなるのですが、少し立ち止まってのリフレーミングが重要となります。見方を変えること、そして現在の延長ではない、全く別の世界や現在では考えられない未来も考えることがポイントです。スペキュラティブデザイン、トランジションデザイン、バックキャスティング等のフレームワークも参考にしますが、各自の自由な発想や取り組みを許容します。3つの対象領域は、これまで①スマートモビリティ、②生涯学習社会、③ヘルスケア/メディカルとすることが多かったのですが、今期は①をリニア中央新幹線、③を宇宙空間としています。私にとっても新しい領域で最終提案が楽しみです。この演習のもうひとつの特徴は企業の方の関与が多いことです。第4回の中間発表会、第7回の最終発表会には、社会人の方にオンライン等にてご参加いただき、コメントをいただいています。学生にとってはこれが大きな気づきとモチベーションになっています。面識のある方だけの参加とさせていただいていますが、興味がおありの方はどうぞご一報ください。今年度で定年退職のため、この演習もあと2クォータのみとなりましたが、企業や他大学においても同じようなWS・演習に取り組まれている方も多いと思いますので、工夫されている点や事例等、今後も情報交換させていただけるとうれしいです。


HCD-Netで人間中心設計を学ぶ

HCD-Net(人間中心設計推進機構)は、日本で唯一のHCDに特化した団体です。HCDに関する様々な知識や方法を適切に提供し、多くの人々が便利に快適に暮らせる社会づくりに貢献することを目指します。

HCDに関する教育活動として、講演会、セミナー、ワークショップの開催、 HCDやユーザビリティの学習に適した教科書・参考書の刊行などを行っています。