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HCD-Netフォーラム2025(2025年度冬季HCD研究発表会含む)の開催概要はこちら

 

HCD-Netフォーラム2025:
HCD-Net設立20周年記念大会
~原点を受け継ぎ、次の時代へつなげる人間中心設計~
開催レポート

HCD-Net設立20周年記念大会、無事に終了しました。
研究発表会も含めた2日間、多くの方にご参加いただき、本当にありがとうございました。
(研究発表会レポート:https://www.hcdnet.org/research/event/entry-2367.html

札幌・名古屋・大阪・福岡のサテライト会場からもご参加いただき、全国で記念大会を一緒につくれたことをとても嬉しく思います。
また、今回は託児所を開設するなど、HCD-Netとしても新しい取り組みに挑戦できました。
そして、講師の皆さま、企画・運営を担ってくださった実行委員の皆さま、事務局、会場スタッフの皆さまのお力が集まり、20周年にふさわしい大会になったと感じています。

今回の大会では、HCDの原点を改めて見つめながら、これからの可能性を多様な視点で語り合うことができました。参加者の皆さまの熱量や前向きな対話から、HCDがさらに広がり、未来へ向けて進んでいく力を強く感じました。ここからの20年も一緒につくっていければ嬉しいです。
ご参加・ご協力いただいたすべての皆さまに、心より感謝申し上げます。

HCD-Netフォーラム2025実行委員長
水本 徹

※順次公開いたします




●1日目


◆基調セッション:「HCDの20年とこれから」----------


■登壇者
・黒須 正明氏(放送大学 名誉教授)
・安藤 昌也氏(千葉工業大学 教授)
・水本 徹氏(HCD-Net 副理事長
・水出 悠斗氏(インキュデータ株式会社)
・水野 愛弓氏(日本事務器株式会社)

■レポート内容
HCD-Net設立20周年を記念した基調セッション「HCDの20年とこれから」では、若手からベテランまで5名が登壇し、人間中心設計(HCD)が歩んできた20年と、AI時代におけるこれからの役割について、議論が交わされました。
冒頭では、水本 徹氏(HCD-Net 副理事長)が、「作って・観て・聴いて・学ぶ」という現場主義を、HCD-Netの活動の原点として大切にしてきたことを紹介しました。
これまでの歩みを振り返りながら、HCD-Netが実践者どうしをつなぐ「扉」として機能してきた意義に触れて、「まずは小さくても、一歩を踏み出すこと」の重要性を伝えました。

若手実践者パートでは、SI企業でHCDを取り入れてきた水野 愛弓氏(日本事務器株式会社)や、コンサルティングファームで実践を進めてきた水出 悠斗氏(インキュデータ株式会社)など、異なる立場のHCD若手実践者から、現場でHCDを取り入れてきた具体的な試みが紹介されました。
属人化しがちな開発体制のなかで「機能中心」から「体験中心」への転換に挑んできたプロセスや、反復的なプロセスへの誤解、ユーザー視点と事業責任者の視点のずれといった難しさが共有されました。
そのうえで、HCDを既存の開発手法と対立させるのではなく、意思決定の土台として組織になじませていくことの重要性が語られました。

セッション後半では、安藤 昌也氏(千葉工業大学 教授)が、利用状況そのものを時間軸で設計していくというパラダイムシフトを提案しました。
「作り手の願い」を軸に、ユーザーが望ましい姿へと変化していくプロセスをどのようにデザインできるかについて、具体的な事例を交えながらわかりやすく解説しました。

最後に登壇した黒須 正明氏(放送大学 名誉教授)は、人間中心からさらに一歩踏み込んだ「人間性中心」という視点を提示しました。
デザイナーこそが強い意思と「こうあるべきだ」という価値観を持ち寄り、互いにぶつけ合いながら社会をリードしていく存在であってほしいと語り、会場に力強いメッセージを投げかけました。

セッション全体を通して、スマホやAIに流されやすい今の時代だからこそ、人と人との関係性や倫理観について落ち着いて対話できる「場」を自らつくり、AIでは代替できない人間の高次な役割をデザインしていくことがHCDの新たな使命である、という認識が共有されました。
単なる現状把握にとどまらず、「作り手の願い」を起点にユーザーの変容までを見据え、強い倫理観と「こうあるべきだ」という意思を備えた先駆者として、一歩先のHCDを切り拓いていく――そんな力強い決意が示された刺激的なセッションでした。




◆セッション1:HCD失敗事例から学ぶ“しくじりクロストーク”----------


■登壇者
・川崎 文子氏(BIPROGY株式会社)
・岡本 里美氏(伊藤忠テクノソリューションズ株式会社)
・熊田 可那子氏(アウルズビジネスパートナーズ株式会社)

■テーマ
HCD失敗事例から学ぶ

■レポート内容
このセッションでは、ペルソナの必要性やプロダクトアウト、定性データの扱いなど、現場で直面した具体的な失敗事例を実務者3名が率直に共有しました。ペルソナを作って終わりにしてしまった経験や、技術ありきで進めた結果ユーザー課題を見失った事例、また定性調査に偏りすぎて議論が空中戦になったケースなどが紹介され、それぞれの対応と学びが語られました。共通して浮かび上がったのは「正しいプロセスをなぞること」よりも「状況に応じて考え直す力」の重要性です。失敗を通じて見えた気づきを共有することで、HCDを現場に根付かせるための実践的なヒントを得られる有意義な時間となりました。参加者からのQAも闊達に行われ、”あるある”への共感の高さが見受けられました。


クロストークの様子

クロストークの様子



◆セッション2:HCDを文化として根づかせる ~経営・現場・実務が交差する実践知と未来~----------


■登壇者
・長谷川 敦士氏(株式会社コンセント)
・藤木 武史氏(コクヨ株式会社)
・早乙女 真由美氏(ソニーグループ株式会社)

■テーマ
HCDを文化として根づかせる

■レポート内容
このセッションでは、HCDを組織に根づかせるために欠かせない「制度」「人材」「現場」の三つの要素が、どのように連動することで文化として定着していくのかを紐解きました。三者に共通していたのは、特別な仕組みを導入すること以上に、共通言語づくりや小さな成功体験の積み上げといった“再現可能な方法”こそが文化づくりの土台になるという点です。

また、HCDという名称そのものにこだわる必要はなく、その本質を現場や組織の文脈に合わせて翻訳し、相手が理解しやすい言葉に整えること—つまり「伝えるための言葉をつくること」自体もHCDのプロセスであるという視点が改めて共有されました。この“翻訳”の力が、HCDを自然と選ばれる行動様式へとつなげていく鍵となります。

立場の異なる三者の実践が交わることで、文化がどのように芽生え、育ち、拡がるのかを立体的に示すセッションとなりました。


ライトニングトークの様子

ライトニングトークの様子

クロストークの様子

クロストークの様子



◆セッション3:AI時代を​生きる​デザイナーの​ための​創造力と​共感力 ​~人間に​しかできない​価値を​デザインする​~----------


■登壇者
・美馬 の​ゆり氏(公立は​こだて​未来大学 教授)

■テーマ
AI時代のデザイナーに求められる「創造力」と「共感力」

■レポート内容
・情報系大学の学習環境デザイン
 人間を理解したエンジニアを育成することを目的として情報科学・工学、人文・社会科学、芸術・デザインのカリキュラムを提供し、知識を溜め込む教育から対話し創り出す教育への変革に取り組んだ。

・生成AIの社会への影響
 UCバークレイ人間互換人工知能センター長「AI時代を・・・」を執筆したStuart Russelの言葉
 「AIは、人類史上最大の出来事の可能性があると同時に人類史上最後の出来事になり得る」
 偽情報、過剰な信頼とシステムへの依存について大きく危惧している。
 また、AIによる仕事の消滅、大企業への集中も起こり得る。
 これらの影響に対応するためには、技術的な対応と法的な規制、教育や人材育成が重要である。

・AIとの協調
 AIが不得意なことを人間がやる 意思を持ってAIを活用する必要がある。
 AIリテラシーは、誰もが持つ必要がある。
  AIの仕組みと限界の理解
  ツールを活用する力の獲得
  利用目的を問う倫理的思考(AIをどこに使ってどこに使わないのか)

・伝統的な3つの倫理理論
 功利主義:最大多数の最大幸福を追求する
  AI導入で効率が上がるかが重視され、少数派の軽視、利益の測定困難
 義務論:ルール、責任、正義
 徳倫理:よき人格、専門性
 AIは功利主義との相性がよく、利益追求に走る可能性がある。
 そのため、他者への関心・責任、相互援助のケアの視点が必要となる。
 3つの倫理にケアの倫理を加えた4つの視点を意識的に使い分け、対話する力が求められる。

・AI時代の新しい前提
 AIが提示する選択肢は判断の基盤にも影響する。
 Preferenceとは自分が何を大事にするかという判断の軸。
 Humane Lerning Design  ー 人間らしさを育む営みへ
 Humane AI Design ー 人間性、倫理、ウェルビーイングを中心に据える
 デザインは社会的責任を伴う営みであり人間性と未来への責任を伴う。
 これからのHCDは、AI時代の人間性を育てるデザインへと変革していく。

ディスカッション
・効果的利他主義の課題は? 
 欧米のAIエンジニアの間で宗教のように広がっている。
 数値化することが課題。数値が全てで、功利主義で切り捨てられる営みが出てくる。

・AIの活用 功利主義に全振りの強い流れの中で何ができるのか?
 HCDの人材がチームに入っていることが重要。
 デザインの人は、アウエイ感を持って発言できる。
 哲学者が重宝がられている、そもそもの視点で発言・議論できる。
 
・AI文化に親しんだ人はどんな風に話すのか?
 オーラルからテキストへの流れの中で人は変わっていった。
 思考と道具の関係は変わっていくため、答えはない。
 注目して見ていくことが重要


公演の様子①

公演の様子①

公演の様子②

公演の様子②



◆ワークショップ1:ファシリテーション実践ワークショップ ~ファシリの引き出しを増やし、実践力を高めよう!~----------


■登壇者
・杉村 郁雄氏(プロセスクリエイト)

■テーマ
優れた問題解決と合意形成を目指す、ファシリテーション実践ワークショップ

■レポート内容
このワークショップは、HCDのさまざまな局面で活用できるファシリテーションの技術を、基本を​押さえた上で、実践によって「体験」し​「振り返る」​ことで、​自らの​スキルを​磨く​プログラムとして開催しました。
前半は基礎学習。ファシリテーションする上で重要な4つのスキル「場のデザインのスキル」「対人関係のスキル」「構造化のスキル」「合意形成のスキル」を学び、後半は模擬会議を通した実践ワーク。テーブルごとに、ファシリテーター役・書記役・参加者役に分かれ「日本で男性の育児参加率を上げるにはどうすれば良いか?」というテーマでディスカッションを行いました。
ディスカッションは短時間ではありましたが、板書のフォーマットに工夫を凝らす参加者や、発言や合意を促すようなファシリテーションを行う参加者が多数見られ、各グループそれぞれ、前半の学びを意欲的に実践していました。




◆ワークショップ2:HCD × GenAI:AIが​変える​人間中心設計の​未来----------


■登壇者
・米本明弘氏(株式会社mct)
・増田伸生氏(株式会社mct)
・牛嶋洋平氏(株式会社mct)
・荒井健吾氏(株式会社mct)

■テーマ
HCD × GenAI:AIが​変える​人間中心設計の​未来

■レポート内容
AIに​よって​HCDのデザインプロセスはどのように変化していくのか?このワークショップは、生成AIペルソナへのユーザーインタビューを体験しつつ、グループディスカッションを通して、AIの可能性へのヒントを探る企画として実施されました。
AIペルソナは、ChatGPTのMyGPT機能を利用してあらかじめ細かく設定が行われたサンプルを使用。そのサンプルにさまざまな質問を投げかけ、どのようなアウトプットが得られるのかを、参加者全員が体験するところからスタート。実際の人間相手では聞きにくような質問であってもAIであれば反応を得られる点や、結果を歌詞で表示するなど、単なる回答とは異なる形での情報入手が可能な点などが示唆されました。
後半はディスカッションの時間。「対人間と対AIユーザーのインタビューの違い」「AIの登場・浸透によって、HCDプロセスの中で変わる点・変わらない点」「人の役割の変化」といったテーマで、深い議論が行われました。
本ワークショップは時流に合致したテーマであったこともあり、満員御礼となるほどの人気セッションでした。セミナー終了後も参加者の好奇心は冷め止むことなく、終了時間が過ぎても情報交換が続いていました。


HCD × GenAI:ワークショップの様子1

HCD × GenAI:ワークショップの様子1

HCD × GenAI:ワークショップの様子2

HCD × GenAI:ワークショップの様子2



◆ワークショップ3:HCD導入の壁突破ワークショップ----------


■登壇者
・川崎 文子氏(BIPROGY株式会社)
・岡本 里美氏(伊藤忠テクノソリューションズ株式会社)
・大岸 範史氏(ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社)
・濱口 貴広氏(オムロンヘルスケア株式会社)
・内田 さやか氏(BIPROGY株式会社)

■テーマ
HCD​を​組織に​導入・定着させる​際に​直面する​障壁を​参加者同士で​議論し学びに繋げる

■レポート内容
このワークショップは、HCD(人間中心設計)を組織に導入・定着させる際に直面する障壁を参加者同士で可視化し、最終的に自身の現場に適用できる具体的なアクションプランに繋げることをゴールとして開催しました。

ワークショップの流れは以下の通り。
1.参加者が障壁や困りごとを書き出す。
2.似たような障壁を持つ人たち3人でグループを作り内容を共有。
3.困りごとの原因を探索。
4.原因を突破するアクションプランをディスカッションを通し検討する。

似たような困りごとを持つもの同士でグループを組んだことで、深い議論が行えました。そして業種を越えたディスカッションは、似たような困りごとといえど少し異なることから、新たな視点とヒントを得られる様子が見受けられました。また、参加者は困りごとに対し組織の中で孤軍奮闘しているような人も多く、同様の困りごとを持っている人と接することで、困っているのは私ではないと感じ、励みにもなるという副次的な効果もあったようです。同志とも言える人たちと話せること自体が刺激になると同時に、多くの実践的な学びを得る貴重な機会となりました。


ワークショップの様子

ワークショップの様子

ワークショップの様子

ワークショップの様子

◆サテライト会場:札幌、名古屋、大阪、福岡----------

『東京の会場から配信される豪華なセッションを皆で楽しみ、学びを深めるイベント』として、全国4か所で開催しました。


札幌サテライト会場

札幌サテライト会場

名古屋サテライト会場

名古屋サテライト会場

名古屋サテライト会場

名古屋サテライト会場

大阪サテライト会場

大阪サテライト会場

福岡サテライト会場

福岡サテライト会場

福岡サテライト会場

福岡サテライト会場

福岡サテライト会場

福岡サテライト会場


セミナー・サロンレポート ※研究発表会は「研究会」ページをご覧ください

アーカイブ(すべてのセミナー・サロン開催概要)※研究発表会は「研究会」ページをご覧ください

動画チャンネル

一部の講演は動画チャンネルで見ることができます。

HCD-Netで人間中心設計を学ぶ

HCD-Net(人間中心設計推進機構)は、日本で唯一のHCDに特化した団体です。HCDに関する様々な知識や方法を適切に提供し、多くの人々が便利に快適に暮らせる社会づくりに貢献することを目指します。

HCDに関する教育活動として、講演会、セミナー、ワークショップの開催、 HCDやユーザビリティの学習に適した教科書・参考書の刊行などを行っています。