海外カンファレンス報告

【イベント概要】

2016年11月18、19日に、ベルリンで開催されたService Experience Camp(SXC16)に参加してきました。

SXCは、年に1回、サービスデザインベルリンが主催するイベントで、今回の参加者は200名ほど。多くはヨーロッパを中心とした20代後半から30代の比較的若いサービスデザイナーが多く、日本からの参加は筆者ら2名でした。



このカンファレンスの特徴は、Co-conferenceをコンセプトとした運営者と参加者が共に会を創り上げる一体感にあります。そのポイントがオープンセッション(昨年までは、bar campと呼ばれていた)です。


オープンセッションは、2日間で30ほどのセッション枠だけが用意されています。いつ、何のセッションが行われるかは当日、各セッションオーナーのショートピッチ(1名20秒!)後に決まります。参加者はランダムに割り振られたセッションから、自分の興味あるセッションを選んで参加します。

同時間帯に5つのセッションが並行して行われ、これが初日は4回、二日目は2回、続きます。それ以外に、キートークやパネルディスカッションもあるので、なかなか体力的にもしんどく、その辺りがCampと呼ばれる所以かもしれません。



また、もう一つポイントを挙げるとすれば、カンファレンスのアットホームな「雰囲気」です。言葉だけでは伝えきれないのですが、参加者同士が気軽に会話できる仕掛けが随所に用意されています。



例えば、朝やセッション間のコーヒータイム、自由にドリンクや食べ物をつまめる、それをボランティアスタッフが促す。その一角にはボードゲームが置いてあり自由に遊べたり、奥のブースには変な?写真が撮れたり。会場の広さも広すぎず、狭すぎず、誰かを探そうとすれば、少し探して見つけられるサイズです。このようなカンファレンス、一言で言えばサービスデザインのお祭りのようなイベントです。


それでは、カンファレンス内容に関するポイントについては、筆者らそれぞれの所感で記したいと思います。

【尾形所感】

私は1年前も参加したので、今回で2回目の参加でした。一昨年は、オープンセッションがBar Campという呼び名だったので、飲みながら気楽に何かワークをするのかなと本気で考えていました。実際はそうではなかったのですが、そのくらい参加者同士の距離感が近くなるアットホームながらも熱い雰囲気のイベントであることは変わりませんでした。ただ、この雰囲気、熱すぎるので楽しめる人、ちょっと引いてしまう人はいるとは思います。私はとても楽しめましたが。


今回参加しての印象は、キートークの中でも「サービスデザインは“ツールキット”ではなく、“マインドセット”である」という提言があったように、サービスデザイン自体を再定義するような全体の流れを感じました。



主催者のManuelやキートークのプレゼンテーターでもあったMarc Stickdornの開いたセッションに参加したのですが、そこではセッション参加者らがよく使っているサービスデザインのツールを一件一葉で付箋に書き出し、それをマッピングして利用頻度やインパクトのあるツールの傾向を分析する、といった内容のセッションが行われました。


結果的に、セッションで何らかの結論が出た訳ではないのですが、これらのセッションが開かれた背景には、サービスデザインのツールは一通り出そろって実践をしてきたが、ツールを単純に使えばよいのではなく、どのタイミングで、何を、どう使うかがポイントで、それを今模索している最中であることがわかりました。また、Manuelをはじめ多くのサービスデザイナーからサービスデザインに対する危機意識が感じられ、自分たちの価値がプロジェクトを通じて社会につなげられているか?を問うているかのようでした。



今年も参加して、改めてSXCのようなカンファレンスは自分たちが日ごろ考えていることを試す場、問う場として私は有効だと思いました。日本でも、本場のような雰囲気作りは難しいかも知れませんが、ベルリンからアドバイスをもらいながら、日本版SXCを開催できればと考えています。


【吉川所感】

今回初めて参加しました。キャンプという名前にふさわしい音楽フェスのようなお祭り感にあふれた二日間でした。セッションでは発表者が何かを提供してくれることを期待するのではなく、参加者も関与し一体で場を盛り上げる文化があり、その風土は素晴らしかったです。セッションの間の休憩時間でも目があったら”Hello!”と挨拶しネットワーキングが始まるので、20秒で自分を紹介できるエレベータピッチを用意しておくと良いでしょう。


全体としては「ツールキットから、マインドセットへ」というようにサービスデザインを取り組む際の「姿勢や態度」をいかに醸成するかがテーマとして横たわっていたように感じられました。日本では現状として、デザイン思考やサービスデザインに関するキーワードがとにかく多数登場しもてはやされ、その背景や目的が十分に咀嚼されていないと感じていましたが、現地でも同じ状況のようでした。これからはいかに「プロセス、ツール主義」から脱却し、「能力、取り組み姿勢」にフォーカスできるか、そしてそれを顧客や関係組織と一緒に実施できるかが重要になってくると改めて思いました。誰かのセッションで、Customer journey map is not a deliverable!(カスタマージャーニーマップは成果物ではない)と発言したところ参加者側から「YES!!」との反応があったことは印象的でした。

個人的に、主に公共サービス向けのデザインを行っているFutureGovのSimone Carrierさんの発表にあった「デザイナーのように考えるコツ」に大変共感しましたので紹介したいと思います。

  • Empathy over data:データより共感
  • Curiosity over knowledge:知識より好奇心
  • Experimentation over planning:計画より実験
  • Doing over thinking:考えるより行動
  • Instinct over certainty:確実性よりも直観
  • Chaos over order:秩序よりカオス

2日間とにかく疲れますが、実践者同士の情報交換がしたい、または海外で働くにあたり自分の英語力を試したい人にはオススメなイベントです。


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報告者
尾形慎哉(株式会社グラグリッド)
吉川嘉修(富士通デザイン株式会社)
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