HCD認定ニュース

2018年度の専門資格認定試験の審査結果をご報告いたします。

1. 審査結果

NPO法人人間中心設計推進機構(HCD-Net)専門資格認定センターが、2009年度から実施している「人間中心設計専門資格」の2018年度(第10期)試験が完了しました。既に合格者の発表は3月末にすんでいますが、今年度は76(昨年比+22)名の方々が「人間中心設計専門家」として、また2014年度から新設された「人間中心設計スペシャリスト」として82(昨年比+30)名と昨年比かなり多くの方が認定されました。特に近年スペシャリスト認定者の数が大きく伸びている傾向にあります。合格者全体の内訳は、HCD-Net会員が9名、一般が149名です。

専門家、スペシャリストを合わせると応募者数は昨年度に対して1割強アップと少し落ち着きましたが、相変わらず増加しています。今回も受験者説明会の申込者も100名を超え、真剣な質問の多さに上手く回答できない面があったこと反省しております。昨年度も専門家の活動が各方面のWebサイトで広く告知されたこと、専門資格を名刺の肩書に記載している方が増えたことなどにより、この制度に関心を寄せる方々のすそ野が引き続き広がりつつあるようです。しっかりした運営をより意識すべきと改めて認識しました。
嬉しいことに、18年度はここ数年続いている受験申込をされながら最終的に申請書を提出されなかった方が目立つ傾向に大きく歯止めがかかりました。一つは申請者の真剣さが増したこと。そして後述する、今年度から導入した「プロジェクト整理シート」も貢献したのでは、と考えております。

2. 審査基準や審査方法は昨年度継続

HCD/UXDの専門家に求められるコンピタンスは時代の要請とともに少しずつ変化しています。大幅見直しをした2013年度からかなりの年数が経過しています。そろそろ再度の大幅見直しをしたいのですが、審査方法の改善に手いっぱいでなかなか手が回らないのが現状です。母体であるHCD-Netの協力も仰ぎ見直しできないかと議論をはじめています。
18年度も17年度に大きく見直した申請用紙やGoogle スプレッドシートも用いた申請方法を継続しています。本年度のGoogleスプレッドシートの利用率は7割でした。
今年度新規で導入した「プロジェクト整理シート」は、コンピタンス記述書に記載するプロジェクトの選択に役立てることを狙った書類です。新しく認定センターの活動に加わった方々を中心に検討を進めました。審査書類の記載に苦労した記憶の新しいメンバーからの提案、検討は本当に貴重でした。

昨年もお知らせしましたが、受験者説明会に参加した方の方が合格率が良くなる傾向が続いています。毎年申請書類を書く際の留意点など見直して伝えていますので、説明会参加すること、参加できなかった方々もビデオや資料などをしっかり確認いただくことの重要性を引き続き19年度の応募者にも伝えていきます。
また、近年見直してなかったコンピタンス記述例の記述内容や位置づけについて見直しが急務ことを、昨年の受験者説明会などを通じて実感しています。今年の重点施策の一つとして取り組んでいく所存です。

3. 認定機関の位置づけ見直しと倫理指針の策定

10期の専門家認定を終え、のべの認定者は1,000名に迫ろうとしています。18年度は、本認定制度を支える審査員の方々に対して、より公正な認定制度となるように審査上の具体的な指示を新たに加えました。
また最終の専門資格判定会議でも公正な審査となるよう進め方の工夫を加えています。これらの工夫で得た知見を19年度の受験者説明や審査員説明に活用し、より公正な認定制度として維持できるように努めていきます。
毎年説明していますよう2015年度に制定した倫理規定は、認定試験において、受験者を保護するとともに審査・判定の厳密性、正確性、再現性を確保することを目的としています。対象者は認定センターメンバーや認定試験に関わる事務局員と審査員です。

4. 審査経緯

2018年度は以下の日程で審査を行いました。
募集要項公開 2018年11月20日
申請開始 2018年11月20日
申請締切 2018年12月20日
書類提出締切 2019年1月21日
合格発表 2019年3月27日
審査経緯は例年どおりです。
受験者説明会は関西地区を含め2回、審査員説明会を1回行いました。また今年度も以下を目標とした審査員ワークショップを継続実施しました。
1)特に初めて審査を行う方々に審査基準を正しく理解していただくこと
2)何度目かの審査を行う方々には最新のコンピタンスへの理解を深めること
公正な審査実施に、効果的ですので、次年度以降も続けていく所存です。

今年度も多くの認定専門家の協力の元、審査を実施しました。これまで通り審査経験年数多い方を必ず含めるとともに、1人の受験者に対して同業種、異業種からなる5人の審査員が厳正な審査を行いました。

最終的には、専門資格認定センター有識者で構成された専門資格判定会議において、一人一人の受験者の審査結果に関して各審査員の審査内容を個別に確認し、最終的な合否の判定を行ないました。

5. 認定試験(申請、審査)における課題と対応

残念ながら今年も以下の記述を繰り返し指摘することとなりました。一つは受験者説明会で強く意識し説明しているにもかかわらず、記述の内容からは申請者が主体的にどのように関わっているかが読み取れない申請が多くありました。二つ目はHCD/UXDの手法が広く行き渡ってきたためか、単に手法を適用したことしか記述しておらず、どのようにコンピタンスを発揮して成果をあげたのか読み取れない記述が多かったことです。申請者の方々はこの点を忘れないでいただきたいです。また認定センターとしては今後とも受験者に記述のポイントが確実に伝わる説明をさらに検討していきます。
もう一つ気になるのが一つのプロジェクトの中で当然コンピタンスを発揮したはずなのに、記載がないケースです。例えば、プロジェクト全体の計画の中にユーザーテストを実施すると書いてあるし、プロジェクトの役割としても記載されている。でも、ユーザーテストに関するコンピタンスの記述が全くないという場合です。単に時間が無くなって記載できなかっただけかもしれません。こういった不整合があることで、記載内容自体の信憑性に疑問を感じてしまいます。

最後に、コンピタンスの理解が不十分と推測されるケースが多い傾向は変わりませんでした。認定制度への関心が高まり、多彩なバックグラウンドの方々が受験するようになったのに、コンピタンスマップやコンピタンス記述書の説明の読み込み不足が一因のようです。19年度も引き続き申請フォームを見直してコンピタンスの説明が伝わりやすいようにしていく予定でいます。そのうえで今後受験される方々にコンピタンスを読み込んで理解することの重要性をしつこく伝えていきます。
毎年の繰り返しになりますが、本認定試験は、記述された内容のみで合否を判断する書類審査方式です。わかりやすい記述ガイドライン、記述例、コンピタンス説明書を用意することはもちろんですが、申請者の皆さんに、(説明会等に参加する、もしくはビデオを見ていただき、) コンピタンスの定義の正しい理解と書き方を確実に理解していただく必要性があると考えます。
一方、先に紹介した審査員ワークショップの実施のように、審査員候補である認定専門家の方々に向けたコンピタンス全般に対する理解を深めることができる施策も実施しております。引き続き、審査結果の精度を高めることや、審査のばらつきをさらに低減させる施策の実施を継続していきます。

6.今後の展開

「認定HCD専門家」「認定スペシャリスト」の認定者の合計は1,000名に迫るまで増えました。HCD専門資格認定制度が、各方面で大きな社会的責任を負っていること、ひしひしと感じております。先にも述べましたが、以下を意識した新しい組織体系を提案するべく準備を進めていきます。

引き続き今後のあるべき組織体制として以下を重視していきますが、現状の認定センター運営メンバーでは対応しきれない状況になってきました。より多くの認定専門家の方の協力を得ながら、組織体制を維持していきたいです。積極的な協力をお願いいたします。
・HCD専門資格認定制度が中立で公正、厳密な制度であることをさらにアピールできる組織体制にする
・認定された方々の積極的な交流の場を設ける、専門能力・スキル維持、向上のための教育を実施するなど、資格保持者へのサービスを充実させること
・国内外における他の関連認定制度との連携など、積極的に社会的にアピールできる資格を目指していくこと

専門家の多くはユーザビリティ、人間中心設計、ユーザーエクスペリエンスデザイン、サービスデザインの業務を専門とされていることが多いと思いますが、スペシャリストの資格は、まだ実戦経験が少ない方々や人間中心設計、ユーザーエクスペリエンスデザイン、サービスデザインを専業としないデザイナーやエンジニア、商品企画の方々、HCD-Netにまだ関わりの少ない業種の方々にももっと多く取得していただきたい資格です。今後、積極的な広報活動を通じて、さらには既に資格を取得されている専門家・スペシャリストの皆さんからの働きかけによって、裾野を少しでも広げてゆきたいと考えています。

7. お願い

毎年のお願いではありますがあらためて。
本資格は、HCD-Netが人間中心設計実践において定めた一定の基準を充たしたことを認めるものであり、今回資格を認定された方は、各方面において今まで以上に人間中心設計、ユーザーエクスペリエンスデザイン、サービスデザインの実践に励まれるとともに、啓蒙普及にご尽力いただくようお願いいたします。また、実践を積む中でより幅広いコンピタンスを発揮できる専門家をぜひ目指してください。

また、今回基準に満たなかった方々も、人間中心設計専門家・スペシャリストまたはそれに準ずる資格に認定される方々ばかりと認識しておりますので、なお一層の実践を通したスキルの獲得、知識の習得により来年度以降の積極的な申請を心よりお待ちしております。

なお、この制度は、3年ごとに資格を更新する仕組みになっています。すでに、資格を取得された多くの専門家が、人間中心設計分野での実践、知識の習得などを通じて必要なポイントを獲得し、資格を更新されています。
昨年度から更新の際にはHCD-Net活動への参加や運営協力で得られるポイントを必須としています。これは先にも述べたように本認定制度や母体であるHCD-Netを専門家の方々で支えていきたいと考えているからです。突然の修正でしたが、なにとぞご理解をいただきたくよろしくお願いいたします。

最後に、審査にあたり300名を超える認定人間中心設計専門家の方々に、お忙しい中にもかかわらず多くのご協力をいただきました。改めてこの場を借りて御礼申しあげます。

2019年5月
NPO法人人間中心設計推進機構
人間中心設計専門資格認定センター
センター長 伊藤潤