認定専門家の声


「インハウスの人間中心設計専門家は、人と人とをつなぐコーディネーターです」
堀内 正人さん(株式会社JVCケンウッド)

株式会社JVCケンウッドで人間中心設計専門家として活躍されている堀内 正人さんに、インハウスでの人間中心設計専門家の役割とやりがいについて伺いました。

開発部門の技術者や、商品企画の担当者、営業と一緒に進めています

堀内さんはメーカーのなかで、いわゆるインハウスの立場で人間中心設計専門家として活動されています。ふだん、どのようなお仕事をされていらっしゃるのでしょうか。


株式会社JVCケンウッドのデザイン部門で仕事をしています。弊社には、カーエレクトロニクス、業務用システム、ホーム&モバイルエレクトロニクス、エンタテインメントの4つの事業部門がありますが、主として各部門のプロダクトやサービスといった開発案件に人間中心設計専門家として加わっています。
実際に現場に入って、具体的な設計解を事業部のメンバーと一緒に考え、考えた設計解をデザイナーに伝えて魅力的にデザインづけをしてもらいます。

一例として、弊社のビジネス・ソリューション事業部から市場導入しているセキュリティ監視カメラのレコーダーのケースを紹介します。操作画面のGUIについて、まず要件を私のチームが洗い出し、事業部のメンバーと連携して画面仕様を作り、デザインづけをします。それを事業部のエンジニアがプログラムとして実装しました。

その他の例では、セキュリティシステム制御用のリモコンがあります。このラインナップに弊社で初めてタッチパネルを搭載した機種です。ジョイスティックの持ちやすさやハードボタンの位置、画面の角度などについて、フィールド評価を行って外形仕様を決めたり、こちらで考案したGUIの仕様についてもタッチパネルボタンの押しやすさをユーザー検証するなど人間工学的な配慮も盛り込みながら事業部メンバーと仕様を詰め、デザインづけをしたものが、プロダクトとして世の中に出ていきました。

このようなインタフェースは、ユーザーのしっかりとした理解が必要と思います。ユーザー理解はどのように進めていらっしゃるのですか。

ユーザーのことを調べて要件を出していきます。これはデザイン部門だけで進められる作業ではなくて、開発部門のエンジニアや、商品企画担当者、営業と一緒に進めています。ときには現地調査として、使われている現場を見せてもらい、要求事項に反映させます。

一方で、実際に業務用システムを見に行く機会を得るのはなかなか難しいこともあります。例えば、先ほどのセキュリティ監視カメラを導入いただいているお客様の業種の多くは、当然ながらセキュリティ面でも非常にシビアで、あまり頻繁に現場を拝見するわけにはいきません。少ないチャンスを伺いながら、調査をしています。
他にも例えばワイヤレスインターカム、通称インカム、無線コミュニケーションシステムですね。店舗、施設、工場などでよくお使いいただいています。これも現場を見せていただきました。

調査のあと、社内の関係者との共有は、どのような点に留意して進めていくのでしょうか。

今お話したような用途がはっきりしている商品ならば『ターゲットユーザーを明確にする』ことです。
例えば、先ほどのセキュリティ監視カメラの例でも、本格的な追尾監視が必要な施設でのご利用から、システムに不慣れなご年配の方が利用されるコンビニエンスストアまで、システムの用途や利用状況にも色々なバリエーションがあります。
ユーザーを洗い出し、それらのユーザーの特徴をあげて「こういう人をターゲットにするのであればこういう仕様が必要だよね」という要素を書き出した上で、議論していきます。

シナリオ法が商品開発に活用された

他にも、さまざまな商品開発に関わっていらっしゃると伺っています。


最近増えているのが、コンセプトメイキング支援の仕事です。

例えば、スポーツカムという民生用の商品開発に関わりました。
今までのビデオカメラとは違った、新しいカメラの使い方の提案をしよう、という提案型の商品開発です。

この商品開発では、シナリオ法という手法を使いました。アウトドアで激しく動くスポーツで『映像を撮って楽しむ』ってどういうことだろう、という提案をデザイン部門の主導で行いました。

そのアウトプットをビデオカメラの商品企画メンバーが採用して、インパクトのある商品につなげてくれました。シナリオ法が商品開発に受け入れられた瞬間ですね。

本年7月に発売しましたが、販売台数も想定以上に伸びています。

それ以外にも商品開発にシナリオ法を使ってみようという部門が増えてきています。一緒に仕事した事業部のメンバーが、シナリオ法について「おお、いいじゃないか」「次もこれでやってみようか」というように広がっていまして、コンセプトメイキング支援の仕事もだんだん増えてきています。

インハウスの人間中心設計専門家は、人と人とをつなぐコーディネーター

インハウスの人間中心設計専門家には、どのような役割が求められるのでしょうか。

私のようなインハウスの人間中心設計専門家には、人と人とをつなぐコーディネーターの役割があると考えています。

ユーザビリティをどうやって実現させていくのかという視点で見たとき、社内には隙間が多くあります。ここは電気屋の仕事だ、ここはメカ屋の仕事だ、ここはソフト屋だ、いろんな専門家がいます。商品開発に関わる社内の関係者は、みんなそれぞれ責任分野があり担当としての見解があります。
ユーザビリティはそれら全体にかかる仕事です。それぞれの社内の関係者の見解を理解した上で、一歩踏み込んで、みんなが言っていることを整理してベクトルを合わせていく。そういうコーディネーターがインハウスの人間中心設計専門家の役割だと、日々感じています。

ベクトルを合わせるとは、どういうことでしょうか。

ものづくりに携わる社内の関係者はみんな、ユーザーのことを考えていないわけがないのです。ユーザーに楽しく使っていただきたい、喜んで、満足して、生活が潤うような使い方をしていただきたい。想いは同じなんです。しかし、細かい仕様におりてくると、「俺はこう思う」とか「私だったらこっちがいい」という平行線をたどるときがあります。
インハウスの人間中心設計専門家の役割は、そういうときに「これは誰が使うの」「これは誰に喜んでもらうの」という投げかけをすることです。そうすると「そうか、このユーザーは自分とは違うよな。このユーザーのためには、別のことも考えないといけないな」と気づいてもらえる。社内の関係者に「あ、なるほどな」と気がついてもらえた瞬間は、この仕事をしていてすごく嬉しいときです。

社内の関係者はみんな、厳しいリソースの制約のなかでやってます。例えば、ボタンひとつ増やすのにいくらかかる、というせめぎ合いも少なくありません。その問題をどう解決していくかという切り口が『人間中心設計』です。問題解決をどう進めるかをコーディネートする。ユーザーのためにゆずれないところを、いかに社内の関係者と共有して実現させていくか。『人間中心設計』の専門家と言われるからには、その役割をしっかり果たさなければいけない、と感じます。

人間中心設計専門家がメーカーのなかでやることはたくさんあります

メーカーのなかで人間中心設計専門家の仕事をする楽しさは、どんなところでしょうか。


メーカーの仕事の面白いところは、人が五感で接するところ、ハードウェアに関わるところ、アナログで伝わるところ、そういうところに責任を持てるということだと思います。楽しいところも、苦しいところもたくさんあるんですけれど、その分、やりがいがあります。

ビジネスとして成り立っていくかどうかというのは、費用対効果をはじめ色々な要素があります。だから、メーカーの立ち位置でうまくビジネスモデルに乗るようなアウトプットにしていかなきゃいけない。

お金をかけてユーザビリティをやれば良くなる、それは誰でもわかる話です。しかし、実際のリソースは限られています。限られた日程のなかで、いかに使いやすいものをつくっていくかが大切です。

制約のなかで悩みながら工夫すること。どんなノウハウが必要か、自分で感じて、取り込みながらやっていく。それが自分自身や、自分と関与する社内の関係者をレベルアップしていくことになります。そして、ユーザーの満足につながると信じています。

人間中心設計専門家がメーカーのなかでやることはたくさんあります。人間中心設計専門家の方や人間中心設計専門家を目指す方には、メーカーの中でも数多くの場で活躍できることを知っていただければと思います。

本日はお忙しい中、ありがとうございました。

(取材・文・撮影:HCD-Net 専門資格認定委員会 羽山 祥樹)

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