組み込み技術者のためのユーザビリティ基礎講座

はじめに

前回まではガイドラインの具体的な内容について解説してきた。今回は、そのガイドラインを基にしたチェックリストと、そのチェックリストを用い製品のユーザビリティを評価する方法について解説する。

1. 何故チェックリストを作るか

チェックリストとは照合を行う為の表のことである。言葉を変えれば、検討の抜け洩れを防ぐために必要事項を洩れなく列記したものである。発想法の一つにもチェックリスト法(Alex F. Asborn)というものがあるが、視野が狭くなってしまうとか先入観があるなど、発想の妨げになるものを解消するための良い手法である。組み込み系ソフトウェアの設計活動にも、チェックリストを使用した手法を利用すれば、使いやすい製品の検討がより効率よく行える。

 

ガイドラインは、設計者が利用対象者であり、実務で参照してもらうことを想定している。使いやすさを具体的に記述したガイドラインや、ガイドラインに基づいたGUI部品の素材集的な位置づけを持つスタイル・ガイドに沿って設計すれば、使いやすい製品が効率良く確実に開発できる。しかし参照情報として提示するだけでは、果たしてその内容がきちんと設計に盛り込まれることになるのかどうか、保証の限りではない。例えば、設計者の都合の良いように解釈されてしまうかもしれない。そこでガイドラインを基にチェックリストを作成し、設計活動の進捗に沿って設計の妥当性をチェックできるようにすることが重要である。

 

チェックリストをつくる目的は、使いやすさを確保するための方法を一項目ずつ導入可否判断できるような単位に分解整理し、ユーザビリティの達成度を合理的に把握できるような仕組みを提供することにある。チェックリストが無い場合には、設計のプロトタイプや試作機を使用し、都度、ユーザビリティ評価を実施することになる。精緻でかつ実際に即した受容性の確認という意味では、テスト・ユーザを用いたユーザビリティ評価は確実であり、最終的な要求充足の度合いを知る上で欠かせないものである。しかしプロトタイプや試作機を用意しなければならない。用意が可能な時期にしか評価を行えない点が欠点である。これに対してチェックリストを用いた評価の場合には、設計者が作り込みの中で適宜、都合の良いタイミングで評価することも可能である。柔軟で迅速なチェックには、チェックリストを用いた評価が便利である。仮にガイドラインやチェックリストが無い場合には、使いやすさを検討し作り込むための試行錯誤に時間がかかる。また設計者の思い込みで開発してしまったりする。このような状況を回避するためにガイドラインやチェックリストを作るわけである。

2. チェックリストの役割と有用性

以上のことから、ユーザビリティ・チェックリストの役割および有用性を整理すると、次のようになる。

 
  • (1) 使いやすい製品を作るために、設計の段階での検討の抜け漏れを防ぐ(設計の側面)
  • (2) 設計されたものが、ユーザビリティ上適切なものであるかを検証する(検証の側面)
  • (3) ガイドラインの適用率を把握することで、ユーザビリティ目標の達成度を知ることができる(成果指標としての側面)
 

(1)は設計ツールの役割を有するものであり、使いやすい製品を設計するために何をすれば良いか、設計者がチェックリストで確認しながら自らの設計を行う、という使用を期待している。ガイドラインが参照資料であるとすれば、まさに設計活動の中でチェックリストを使用することで、使いやすい製品を作るために必要なユーザビリティの要点を端的に知ることができる。また使いやすさの検討をよりスムーズに行える。(図1)

 

図1

図1:チェックリストの活用

 

この場合チェックを行うのは設計者である。従って、チェック項目の表現は、設計者が分かるような表現が望ましい。<操作に一貫性があるか>と問うただけでは抽象的過ぎて分からない。本講座の第2回で解説したガイドラインの内容を基にすれば、「機能の分類」や「優先動作」、「階層遷移の方法」、「表示形式」あるいは「ボタン動作の整合」などの対象に分解する。その上で、例えば設計者に対しては、<ボタンは5状態の動作を有しているか>のような設問形式とする(第2回の図6を参照)。設計内容に合わせた表現により検討の抜け漏れを防止すると共に、ソフトウェア完成前の自主点検(=セルフチェック)など、次で述べる検証時の有用性にもつながる。

 

(2)は検証ツールの役割を有するものである。検証には、前述の設計者によるセルフチェックと、ユーザビリティの専門家によるユーザビリティ評価がある。設計者が行うセルフチェックは、ユーザインタフェース(User Interface 以下UI)のソフトウェアが完成する前の最終チェックとして行われる場合が多い。セルフチェックの後に総合的な動作試験やテスト・モニターを使用したユーザビリティ評価を行う。ユーザビリティの専門家によるチェックの場合は、プロトタイプや仮リリースなどのソフトウェア毎に、チェックリストを使用しながら専門的な見地から評価を行うことを指している。ユーザビリティ評価として行うので、チェックリストはガイドラインの要求事項を反映したものでなければならない。これをガイドライン対応型チェックリストと呼ぶ。これに対してセルフチェックの場合にはユーザビリティだけを見るのではなく、製品の要求事項検討の中で合意された機能・性能などの導入内容も含めることがある。この場合を企画対応型チェックリストと呼ぶ。ガイドラインを基にしつつも商品の狙いや開発の条件を考慮した、より現実的なものとなる。(表1)

 

表1

表1:チェックリストの種類

 

セルフチェックを行うかユーザビリティ専門家のチェックだけにするかなどは、対象となる製品の重要度や開発規模を勘案して、開発プロセスの中で決定すればよい。

 

なお、セルフチェックの仕組みを採用することは、ユーザビリティに対する設計者の理解を増進し、社内にユーザビリティ意識を高める効果がある。但し、ガイドラインの目的や導入の趣旨が理解され、チェックリスト活用の方針が浸透し、チェックリストの使用が開発プロセスの中で正式な点検行為として位置づけられていることが前提である。従ってガイドラインやチェックリストの開発者は、開発に先立ち、実際に使用する設計者などの十分な理解を得ておくことが肝要である。

 

(3)は、(2)の検証ツールという側面をさらに進め、成果指標という風に捉えるものである。チェックリストがガイドラインを反映したものであれば、チェックリストを使用したユーザビリティ評価を継続的に行うことで、ガイドラインがどれくらい遵守され適用されているかが分かる。チェック結果をガイドライン適用率とかガイドライン遵守率といったようなプロセスの管理指標として活用することである。プロセスの管理指標であるから、製品間の品質の違いやプロセス改善を科学的なアプローチで行うことができる。

 

ユーザビリティ要求の導入や要求に基づく改善を製品の市場導入までフォローしておく仕組みの構築は重要である。チェックリストは評価ツールとしてではなく、プロセスとして捉えた方が有用性の高いものになる。

3. 目的に応じたチェックリストの種類と作り方、使い方

チェックリストは様々な作り方がある。汎用性を高め、自社の様々な製品に適用するためには、製品の大きな区分に対して汎用的に使用できるようなものがよい。これは汎用型チェックリストと呼ばれ、比較的抽象度を高めた表現でチェック項目を作成する。汎用型チェックリストの代表としては、小型情報機器やパーソナル・コンピューターのアプリケーション・ソフトウェアなどの商品に広く適用できるものとして「汎用ユーザビリティ・チェックリスト」(黒須正明)がある。このチェックリストは、「操作性」や「認知性」、「快適性」、あるいは「特別な配慮を必要とする向け」の項目など、ユーザビリティの要求事項が分類されている。さらに、例えば「操作性」の項目の下には、「身体適合」や「視認性」、「可聴性」など、使いやすい製品としてどのような品質が求められるかが体系的にまとめられている。(表 2)

 

表2

表2:小型情報機器における汎用ユーザビリティ・チェックリスト(黒須)

 

汎用型チェックリストの欠点は、汎用的であるがゆえに抽象的な表現が否めないこと。そのため解釈に揺れを生じる点である。実際の設計値を適切に導くためには、ユーザビリティ専門家と設計者による折衝に相応の労力と時間を要する。チェック項目の読み取りはユーザビリティの専門家が行わなければならず、現実には設計はそれを下回る場合が多々あるからである。例えば先の「汎用ユーザビリティ・チェックリスト」に、<指や手の大きさ、身体各部の大きさにあっているか。大きすぎないか、小さすぎないか>というチェック項目があるが、ラップトップ・コンピュータの場合のキーピッチは17mmが良いか、または15mmでも良いかなどは、キー形状やキーストークなども関係する。手の大きい設計者は17mmでも狭いと思うかもしれない。またPDA(Personal Digital Assistance)や携帯電話の場合はもっと狭いキーピッチにせざるを得ない。汎用型チェックリストしか無い場合は、設計者とユーザビリティ専門家間の経験や知識とユーザビリティ評価によるしか答えが導きだせない。関係者間での折衝が不可欠になるわけである。

 

汎用型チェックリストの作り方は、まず前述のように、利用品質の項目の分類と体系化を行うことである。自社の製品分野に照らして、前述の「汎用ユーザビリティ・チェックリスト」を基に改良を加える、という手っ取り早い方法もあるが、過不足が無いかはよく吟味する必要がある。予めガイドラインの構成や項目立てが上手くできていれば、その項目毎にチェックしやすいような表現に直すだけでチェックリストを作成することができるが、ガイドラインの抽象度が高いと、具体的な確認が行えるような詳細なチェックリストを開発する労力が反比例的に増加する。

 

汎用型チェックリストは、一義的にはユーザビリティの専門家が評価を行う際に使用する。評価対象は図面やプロトタイプなど、初期の設計の成果物でも可能な場合がある。ユーザビリティ専門家がこれらを調査し、チェック項目毎に問題がないかを分析していく。詳細なチェックリストを作る手間を省く意味からも、ユーザビリティの専門家による評価は有効に機能する。

 

チェックリストのもう一つのあり方は、個別インタフェース特化型チェックリストである。先の例を用いれば、PDA用チェックリストとか、ノートタイプ・パーソナル・コンピュータ用チェックリスト、あるいはプリント・ドライバー用チェックリストなどと言うように、特定の製品分野毎にチェックリストを作成し、具体的な数値目標なども交えながら作成するものである。汎用的なガイドラインを使用する場合には、チェックリストの方にある程度の数値目標を設けておく。ガイドラインそのものが製品分野別に具体的な内容となっている場合には、チェックリストの方は汎用型でも構わない場合もある。ようはどこかに設計の目標値を盛り込んでしまえば、設計者の迷いは少なくなるであろう。操作ボタンの例を上げる。隣のボタンを誤操作しないためにはボタンとボタンの距離ではなく配置間隔を問題にしなければならないが、ガイドラインに『ボタンの配置間隔は最低 12mmとする』のように具体的な数値を設けている場合は、チェックリストは、<ボタンは、誤操作を誘発しない十分な間隔で配置されているか>とする。ガイドラインが『操作ボタンは、誤操作を誘発しない十分な間隔で配置すること』のように抽象的な場合は、計器盤やオフィス向け複合機などの場合は、<ボタンの配置間隔が12mm以上であるか>というように表現する。ただし携帯電話のUIをチェックする場合は、数値目標を変えるか、チェック項目としないなどの判断が必要である。

 

ガイドライン、ないしはチェックリストを開発する工数はかかるが、出来てしまえば、運用は楽になる。数値目標があるということは設計者が良否を判断できるということで、セルフチェックも容易となる。ただし、数値目標さクリアーさえすれば使い勝手の良さが保証されるかというとそういうわけではないので、安易な過信はできない。節目毎にユーザビリティ評価を実施し、検証を行うべきである。ここで期待したいのは、設計者が主体的にユーザビリティを作り込むという、成熟した姿である。

 

個別インタフェース特化型チェックリストの作り方は、基本的には汎用型チェックリストと同じであるが、個別の製品分野に特化した内容に詳細化し、設計分担毎の構成にする、という点がポイントである。設計分担毎という意味は、UI画面について述べる部分、ハードウェアである操作パネルについて述べる部分というように、設計分担に応じて章を構成していくやり方である。例えばPDAであればキーピッチを言うよりもキー配列や文字の読みやすさを言う方が重要である。逆にパーソナル・コンピューターではキーピッチがより重要となる。繰り返しになるが、ガイドラインがこの二製品分野で別々に存在する場合は、<キーピッチはガイドラインに即して妥当なものか>といったような抽象的なチェック項目とし、共通に使用して構わない。要はガイドラインとの一体的な運用、作り方が重要である。

 

ガイドラインの利用者は設計者およびデザイナーであるので、ガイドラインとチェックリストが一体で運用されるのであれば、ユーザビリティの専門家が設計活動の全てに渡り介在しなくてもよくなる。ただしこの場合でも、後工程でのユーザビリティ評価は必要になる。これはガイドライン、あるいはチェックリストをどのような作り方にせよ解釈に揺れは生じるためで、この揺れを是正し適正なユーザビリティの品質を得るためにはテスト・モニターを使用したユーザビリティ評価などにより検証することが必要になるからである。

 

チェックリストが実際にどのようなものであるか、幾つか代表的な例をあげて解説する。

 

3-1. 身体的な特性への適合

 

UIを操作する際の、指や手の大きさ、動き、背の高さなどが適切に考慮されているかどうかを知る項目で、<指や手の動きやすい範囲に操作部位が収まっているか>のような設問を設ける。前述の操作ボタンの配置間隔などを取り上げ、<操作ボタンは、誤操作を誘発しない十分な間隔で配置されているか>、などとしてもよい。

 

3-2. 視認性

 

基本的には表示の見易さを述べるわけだが、<表示文字は読みやすい書体を使用しているか>、<表示は見つけやすい場所にあるか>など、なるべく具体的に求めるものを表現する。固有の表示装置を有するUIを対象とする場合は、表示装置の種類によって内容を変える必要が生じる。液晶ディスプレイを使用することが分かっている場合は、<操作位置から十分見える視野角が確保されているか>など、ディスプレイの弱点に着目した方が良い場合もある。エラー情報などを強調し表示するような場合は多用するとかえって見づらくなるため、<強調表示や点滅は多用されすぎていないか>などがよい。どの程度が「多用」の範囲なのかは、表示方法やUIデザインにより異なるので、ユーザビリティの専門家が判断するか、特定の条件を想定して目安を設定することなどが課題となる。

 

3-3. 携帯性/可搬性

 

PDAなど小型の情報機器の場合、持ち運びを想定した項目を重視する傾向にある。<携帯型機器の場合、携帯するには重すぎないか>、<誤動作を防ぐために、操作部のロック(ホールド)ができるか>などをチェック項目とする。<操作部がロック(ホールド)されていることが外観からすぐ分かるか>など、操作開始時のことも取り上げておくと、使い勝手が良くなる。

 

3-4. 平易さ

 

ボタンなどを配置する場合に、似たような機能をまとめて配置したり、同じ色彩を施したりすると分かりやすくなるため、<類似の機能を同じ色、同じ形、同じ大きさのアイコンやボタンでまとめているか>などや、<類似の機能のアイコンやボタンは近くに並べ、他のものから遠ざけているか>など、心理的な要因に関するものも取り上げる。

 

また、<ユーザにとって理解しにくい専門用語は使用していないか>、<操作する方向(押す、回転する、スライドする)は直感的に分かりやすいか>など認知的な要因に関するもの、<モードは浅く(たとえば3階層以内)作られているか>、<ある画面を操作する時、別の画面の情報を利用しなければならないようなことはないか>など記憶に関するもの、<エラーからの復帰操作は簡単か>などエラー対処に関するもの等々も平易さに類するものであり、チェック項目として有効である。

 

3-5. 一貫性

 

本講座の第2回で解説した一貫性についても重要なチェック項目がいくつかあり、表3にまとめた。一貫性を考慮すべき要素は、機能分類、優先操作、画面遷移の方法、配置、表現、用語、および警告表示の7種類あるが、<類似の操作は複数の機能でほとんど同じ操作で実行可能か>は機能分類に関係するため設計者が主に担当し、<アイコン/シンボル/グラフィック表示など、絵図表示情報は全体を通じて一貫して扱われているか>は表現に関係するためGUIデザイナーが担当するなど、役割に応じてそれぞれ関係する部分が異なる。(表3)

 

表3

表3:「一貫性」に関するチェック項目と第2回の解説との関係

 

3-6. 習熟性/学習のしやすさ

 

UIは、使いながらユーザが自然に操作を覚えることを期待している。
学習を支援するものとしては、チュートリアルという紙芝居風に手順を追って操作を促す仕組みを導入している場合がある。この2点を受けて、<特にチュートリアル・ソフトを使わなくても自然に習得できるようになっているか>と、<操作の学習を支援するようなチュートリアル・ソフトが備わっているか>の2つの視点を持つことが重要である。また、機器の使用が動機付けられることが操作の習熟には大切なので、<ユーザが継続して使用したくなるような配慮が施してあるか>なども採用してよい。

 

3-7. 動機づけ支援

 

また使ってみたくなることは操作の習熟ばかりでなく、購買心理に直接影響を与える要因である。<ユーザに使ってみたくなる気を起させるような配慮がなされているか>、<楽しく使えるような配慮がなされているか>などは、非常に抽象的ではあるが重要なチェック項目である。使ってみたくなる気を起させるのは、外観のデザインであったり、機能であったり様々なものがあるが、ユーティリティ要素(注;機能・性能を指す)へも波及する項目である。

 

3-8. 初心者ユーザを意識したもの

 

該当する商品が、特に初心者を主要なユーザとする場合には、<初心者が覚えなければならない情報は少なく設定されているか。すなわち少しだけ学習するだけで使用できるか>、<初心者向けのモードか、使用方法を分かりやすく解説したウィザードを提供することになっているか>など、操作に不慣れな初心者を意識した項目が必要である。

 

3-9. ユニバーサル・デザインの考え方

 

使用するユーザを広くとらえ、様々な障害に応じた配慮設計を施していくためにも重要な項目である。<視覚障害を有する人にも利用できるか>という一般的なとらえ方から、<視覚障害2級の人が使用できるか>や、<点字や触覚を利用した手がかりや音声案内の利用など、代替方法が用意されているか>、<危険な場所に指を挟んだり切ったりしてしまうような危険性はないか>など具体的な障害の様子を引用して、その対策を求めるものまである。色弱、聴覚障害、肢体の不自由、左右利き手の問題や、製品によっては高齢者や幼少児など、ユーザ層をどのようにとらえるかは、チェックリスト開発の前に、モノ作り組織全体の問題として方針を明確にしておく必要がある。

 

3-10. グローバル化への対処

 

製品を輸出する際の留意事項として、海外市場のユーザが適切に使用できるかを問うのも重要な点である。<利用文化圏のユーザが使用に支障をきたさない、言語、もしくはそれに変わる情報伝達手段が用意されているか>、<データの表示形式は、利用文化圏に適合しているか>などが適当である。さらに具体的に、<日付表示は利用文化圏の形式になっているか>などがあると良い。(注;日付表示は「2005/12/31(日本)」、「31/12/2005(フランスなど)」、「31.12.2005(ドイツなど)」のように多様な形式が存在する)

 

以上のようなチェック項目に対して、実際にチェックを行う表の作りであるが、一般的には「設計完了」であるか、完了はしていないが設計中であるもの(=「導入予定」)、あるいは該当する製品には導入する予定がないもの(注;開発方針などで未導入が決定しているもの)を「対象外」とし、いずれかを選択できるようにする。設計者がチェックを迷わないよう、また改善を行う際の手掛かりを得る意味で、チェック項目に該当するガイドラインの名前、章や項を明記しておく。(図2)

 

図2

図2:チェックリストの作り方(1)

 

前述の「汎用ユーザビリティ・チェックリスト」では、項目毎に該当する製品への関連度(3段階)とチェック結果(5段階)の判定点の掛け合わせで数値判定を得るような仕組みを提示している。チェック結果の数値化は、関連度が高い項目で結果が悪いものが重点的な改善項目であると認識できるなど、改善活動への連動性が高く、改善プロセスを進める上で合理的な管理の手段を提供する。(図3)

 

図3

図3:チェックリストの作り方(2)

 

また、項目毎のチェック結果と合わせて、視認性、携帯性/可搬性、一貫性などのカテゴリー毎に満足度の判断をもとめ、どの要素に達成度の傾向があるかを探ろうとするものもある。

4. チェックリストを用いた評価の手順

事前準備としては、まず作成したチェックリストとガイドラインなどの関連文書を用意する。製品関連度などの特定は、チェックに先立ち設計部門とも協議の上合意しておく。曖昧なままで進めると、後々問題が生じる場合があるので注意が必要である。関連文書であるが、セルフチェックの場合は、導入が合意された機能性能の内容が特定できるような仕様書(外部仕様書、内部仕様書など)もあった方が良い。

 

チェックリストを用いた評価の実施であるが、チェック対象はソフトウェアであれば操作画面の配置図、座標図、画面デザイン画などを用意する。ある程度作り込んでいる場合は、プロトタイプ・ソフトウェアやソフトウェアのシミュレータで描画した画面が対象となる。ハードウェアであれば、デザイン図やスケッチ画、簡易的な試作品などで行う。操作パネルなどの場合は、スケッチ画を原寸大にしたものが便利である。ただしスケッチや図面では、ボタンの操作感や画面遷移の過程などは評価できないのは言うまでもない。

 

評価結果は極力数値化する。チェック項目の個数をみるだけでも良いが、先の製品関連度や、重要度づけ判断などを行った上での達成度の数値化は、できばえを判断する意味からも重要である。また数値化により、関連した商品間での比較や、試作機毎の比較などが可能となる。これは有用性の項で説明した、成果指標という捉え方に通じるものである。チェック項目がガイドラインと一対比較できるようになっていれば、チェックした結果からガイドラインの遵守率が求められる。前述の通り、ガイドラインの遵守率は有効な成果指標の一つである。

5. 今後の展望

展望の前にまず課題であるが、一つには、いかに効率よくチェックを行うかということであり、その意味で電子的なチェック、あるいはチェックリストの電子化を進める必要がある。電子化というのは、チェックから集計までを一貫してソフトウェア上で電子的に行うものと、スプレッド・シートのようなものでチェックリストが作成されている場合とがある。電子化の例としては、チェックリストではないが、EU(European Union)で開発されたSUMI(Software Usability Measurement Inventory)というシステムがある。SUMIはソフトウェア商品のユーザユーザビリティ品質を知るために、ユーザに50の設問を与えて「賛成」「反対」「どちらでもない」の3段階で判断を求めるもので、1000ユーロ程度で実際に販売されている。これは電子化の好例である。また米国のある企業では、Customer Satisfaction Measurement System(顧客満足度測定システム)と称して、ユーザユーザビリティ専門家がコンピュータ上の設問に「Yes/No」で答え、コンピュータの自動計算で顧客満足度(CS;Customer Satisfaction)のスコアを予測するシステムを稼動させている。このようにチェック項目が多い場合は、電子化が有効である。

 

今後は、繰り返しチェックなど開発プロセスの中での位置づけを強化し、チェック毎の結果を比較し達成率の推移を見るなどの積極的な活用が望まれる。3つ目の有用性である「成果指標としての側面」を更に強化するわけである。事前に達成度のしきい値、あるいはボーダーラインを品質目標として設定し、例えば80点に達しない場合は設計が終了できない、などの厳格な運用も時には必要である。これはチェックリストの使用が品質保証(QA; Quality Assurance)の観点で導入されていることを意味する。自社の開発プロセスやユーザビリティの品質に対する認識の程度によってチェックリストの位置づけも変わってくる。

 

(第5回・おわり)

参考文献

  • 「ユーザ工学入門」
    黒須正明 他2名、1999年、共立出版
  • 「ユーザインタフェイスの実践的評価法」
    S. Ravden, G. Johnson, 監訳 東基衛、訳 小松原明哲、1993年、海文堂

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