HCDコラム

人間中心設計プロセスの“ユーザーの要求事項の明示”段階を実行して、「ユーザーは、こんな困りごとを抱えているので、こんなソリューションを提供すれば価値を感じてもらえる!」といったコンセプトを導出したにも関わらず、“設計による解決案の作成”段階へと上手く移行できないケースをよく聞きます。

それぞれの間にある2つのキャズムが邪魔をして、移行を難しくしているのだと思っています。1つ目はビジネスモデルを何度説明しても上位層が納得せず、本格的な開発に進めない“溝”です。2つ目は“設計による解決案の作成”段階に移ったように見えて、ユーザーの要求事項を設計に展開できていない“溝”です。

これら2つのキャズムを越えるために、有効だと思うツールや考え方を紹介します。

1)ユーザー調査を行い、提供価値を導出し、ビジネスモデルキャンバスを作成して上位層に説明したにも関わらず、「エビデンスを見せなさい」「そのユーザーが言っているだけじゃないのか?」などと評された。慌てて追加の調査を行い、繰り返し説明するものの同じような指摘を受け、前に進まなかったという経験はありませんか? そんな時はジャベリンボードをお勧めします。(リコー社の寺村氏に紹介いただきました。ありがとうございます。)
ジャベリンボードは米国Javelin社が開発した仮説を管理するツール。ターゲットユーザー、課題、解決策、これらの仮説が成り立つ前提、その検証方法と達成基準を明確にし、検証結果を含めて時系列に管理していくボードです。このボードの内容を上位層と共有することで、何を調査し、どういった結果が出れば前に進めるかが明確になるため、進捗管理ができるとともに、段階的な合意形成が可能になります。

2)ユーザー調査を行い、提供価値を導出したにも関わらず、それを上手くGUI設計に展開できずUXが損なわれてしまった。何のためにペルソナやCJMを作ったのだろうと悩んだ経験はありませんか?
GUI設計時に「○○をXXしたい」「△△をYYしたい」「○○をZZしたい」といったユーザーの要求事項をそのまま機能に展開してしまうことが原因の一つです。これをやってしまうと画面は機能で溢れかえり、ユーザーは、やりたいことをスムーズに実行できなくなってしまいます。この問題を解決するのが、オブジェクトベースUIです。(ソシオメディア社の上野氏が第一人者です。)オブジェクトベースUIの考え方に基づき、ユーザーの関心の対象を手掛かりとして操作設計を行うことで、複雑度や操作手順を減らし、業務効率や学習効率を上げ、UXを保つことができるようになります。ぜひ、オブジェクトベースUIを学んでみてください。

人間中心設計専門家(あるいはUXデザイナー)の役割は、UXが実現するまでマネジメントすることだと言えます。ツールを利用することも重要ですが、何より大切なのは、少しでも良い社会にしたい、ユーザーを幸せにしたいという想い。それを忘れずにマネジメントしていきましょう。


HCD-Netで人間中心設計を学ぶ

HCD-Net(人間中心設計推進機構)は、日本で唯一のHCDに特化した団体です。HCDに関する様々な知識や方法を適切に提供し、多くの人々が便利に快適に暮らせる社会づくりに貢献することを目指します。

HCDに関する教育活動として、講演会、セミナー、ワークショップの開催、 HCDやユーザビリティの学習に適した教科書・参考書の刊行などを行っています。