HCDコラム

  昨今、HCD専門家に支援・要請の声が増えることに加え、その範囲も多岐にわたってきているのではないでしょうか?そうした社内外からの声のキーワードには、「UX」や「CX」、「リーンスタートアップ」や「顧客開発」、そして、「サービスデザイン」や「デザイン思考」などがあります。こういった事態を正しく捉えて対処するために、私たちの持つ専門スキル群を、ソフトウェア分野における「ミドルウェア」のように位置付けてみることをお奨めします。

  そもそも「ミドルウェア(Middleware)」とは、「コンピュータの基本的な制御を行うオペレーティングシステム(OS)と、各業務処理を行うアプリケーションソフトウェアとの中間に入るソフトウェア」(Wikipedia日本版)のことで、「通常はオペレーティングシステムの機能の拡張、あるいはアプリケーションソフトウェアの汎用的(共通的)な機能を集めたもの」(同上)とされています。ここで「コンピュータのOS」のことを、「各種企業や組織、チームにおける実体や日々のオペレーション」として捉え、「各種業務を行うアプリケーションソフトウェア」のことを、その「企業・組織・チームが直面した諸課題とそれを解決する人々」として捉えてみるのです。そうすると、HCD専門家の持つ手法や方法論へのニーズが、現在の組織が解決しようとする際に用いられるさまざまな場面に応じた形として、明確に浮かび上がってきます。

  たとえば、「経営者」の直面する企業体に「イノベーション」や「経営変革」を促す上で、このHCDといったミドルウェアを活用することが「デザイン思考」であること。そして、「事業リーダー」や「起業家」が新しいサービスを起こす際に本ミドルウェアを用いることが「サービスデザイン」であったり、「システム開発者」や「日々のオペレーションを担う人々」が迅速に顧客を巻き込みながらワークスタイルを変える際に本ミドルウェアを用いることが「顧客開発」や「リーンスタートアップ」であったり、「マーケティング担当者」が既存顧客や潜在顧客を企業へのロイヤルティをもった顧客へと促す際にミドルウェアを用いることが「CX」であったりすること。そして、ユーザーとの接点であるユーザインタフェースのさまざまな側面を改善する「デザイナー」が本ミドルウェアを活用して関与する様態こそが「UX」なのです。

  そうやって捉えてみると、企業が直面する課題のタイプや、その課題に対処する主要な立場のタイプによって、ミドルウェアが起動する方式や勘所の違いがみえてくるようになります。企業が直面する課題もさまざまで、対処すべき市場領域のテーマの違いであったり、企業のライフサイクルや規模の違いによるものであったり、なのです。特に「対処すべき市場領域」からのテーマとしては、「IoT/インダストリー4.0」、「フィンテック」、「アグリテック」、「デジタルヘルス」、「ロボティクス」、「地方創生」といった課題があり、そのいずれもがHCDミドルウェアが起動すべきもの、すなわち、企業サイドの視点ではなく、実際の市場で生活や活動を営むエンドユーザーを起点としたアプローチこそが求められていると言えるでしょう。

  このような状況の中で、私たちHCD専門家たちは、各現場や担当者から出てくる要請がどういった課題の解決に向けてのものであるかを捉えた上で、「汎用的(共通的)に使える機能」が何であるのか、そして、新たに身につけたりアレンジを加えたりする必要のある機能とは何かを見極める必要があります。そして、既存の企業組織体の習慣や慣習に対し、「機能の拡張」を迫る機会、つまり、組織体そのものを「人間中心・ユーザー中心」の思想と手法を身につけた組織体へとバージョンアップする(成熟度をあげる)好機と捉えるべきでしょう。その意味からも、皆さんの周辺から何らかのキーワードが浮上する瞬間を見逃さずに、まさに私たちのミドルウェアを存分に起動して、積極的に対処していくべき時機が来ているのではないでしょうか。


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HCD-Net(人間中心設計推進機構)は、日本で唯一のHCDに特化した団体です。HCDに関する様々な知識や方法を適切に提供し、多くの人々が便利に快適に暮らせる社会づくりに貢献することを目指します。

HCDに関する教育活動として、講演会、セミナー、ワークショップの開催、 HCDやユーザビリティの学習に適した教科書・参考書の刊行などを行っています。