HCDコラム

  最近はUX、UXDという表現が主流だが、基本はユーザビリティという言葉を大切にしようと思っている。私の立場は広く産業界へメッセージを送る事と心得ているので、まだまだ「初めまして」という方々と出会う事が多い。また、ヒューマンファクターの検討の欠如により話題になった社会事象の分析研究が進む事で新たに分かる事もある。先日も航空機事故の調査レポートの更新資料を見る機会があり、基本的なユーザビリティ系の考察の大切さを改めて感じた。

  平成23年9月6日22時49分ごろ全日空機が紀伊半島東側上空で異常姿勢(背面飛行に近い状態)から急降下した事象であり、ご記憶の方も多いと思う。運輸安全委員会は平成26年9月下旬に公表した調査報告書で、副操縦士の操作ミスが原因だったと結論づけたが、原因がヒューマンファクター、ユーザビリティに関するものであり、事前の配慮があれば防げたことなので関心がある。

報告書の内容(一部抜粋)は、「737-500のドアロックセレクターと737-700のラダートリムコントロールの形状・大きさ・操作上の類似点が要因になった、とし特にラダートリムコントロールの形状と大きさについて、737系列型式機を除くボーイング社の機種のラダートリムコントロールに見られる、「つば」がない円筒形の直径約50mmの構造に変更し、触れただけで違いが判別できるようにすることの有効性を検討するよう・・・」と勧告している。上記の要因以外にも、各スイッチの配置の問題や副操縦士の訓練(学習)の不足なども要因とされている。

  詳細については報告書を確認いただくとして、本稿ではこうした事象や報告がなされた後の私たち専門家のアクションはどうあるべきか、について考えたい。上記の要因は、ユーザビリティやHCDプロセス、組織的な取り組みなど、いずれも私たちが古くから問題意識を持ってきた事柄である。ただ、報告書の勧告に対する対処について、当事者はどのように受け止めて改善するのだろうか、果たして、私たちHCD専門家は関与することが出来るのだろうか、と思うと不安になる。つまり、直接、飛行に関するスイッチと関係しないスイッチ、もしくは飛行に影響を及ぼす度合いの異なるスイッチの組み合わせは本件以外にも存在するはずで、当該スイッチの対処で済まされることなく、タスクベースでの検討により、網羅的に改善する取り組みがなされる、と期待しているが、私たちにできることは何であろうか。

  航空機事故の専門家の中には「急降下が続けば機体の空中分解の恐れがある。」と解釈しているケースもあり、マレーシア航空が忽然と姿を消した事故の要因では、と推測しているものもある。こうした事故例の話題は特殊な事、自社の商品とは関係が薄いと捉える人も多いが、IoT時代となり、サービス提供におけるセキュリティ事故やネットに絡むトラブルは後を絶たない。サービスを提供する側が配慮できる事は何か、を考えることにも繋げたい。

  9月10日に発足イベントが開催されるビジネス支援事業部では、こうした対外的な情報発信活動も含めて、ビジネスに寄与するアクションの可能性を議論し、具体的な活動に繋げたいと考えている。安全、安心、快適というキーワードを経産省が掲げて久しいが、時代のキーワードで終わらせることなく、確実に基盤的にユーザビリティを確立させ、その上にUXを積み上げていく時代を目指したい。


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HCD-Net(人間中心設計推進機構)は、日本で唯一のHCDに特化した団体です。HCDに関する様々な知識や方法を適切に提供し、多くの人々が便利に快適に暮らせる社会づくりに貢献することを目指します。

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