HCDコラム

Covid-19の第2波の始まりともいうべく感染拡大が首都圏,大阪圏に留まらず全国で始まりつつあり,会員の皆様におかれましても,長期に渡る,お仕事,日常生活の様々な制約のために多くのストレスを感じておられることとお見舞い申し上げます.

毎年理事コラムの当番が回ってくると何を書いたものかと思案に暮れますが,過去を振り返ってみると,ドッグカフェ(2017),論文誌(2018),自動運転技術(2019)とその時身近で個人的にインパクトが強かった体験について記載しておりました.今回も能も無く同じスタイルで書かせていただこうと思います.

ここ数か月インパクトの強かった身近な体験は,大学教員の私にとってはコロナ禍による遠隔授業や遠隔会議です.私は講義,卒研ゼミ,院ゼミ,一部演習を遠隔授業で実施しております.講義はオンディマンド,ゼミ,演習はオンラインと使い分けて実施しています.運営方法の詳細は吉武先生が理事コラムに書かれていたものと類似していますので割愛させていただきますが,4月の当初は大学も教員も全くの手探りでしたから混乱もありましたが,最近は比較的順調に運営できています.また学内の会議は教授会に始まり,学科会議,各種委員会等全て遠隔会議で実施され,HCD-Netもそうですが学外の各種会議も遠隔会議で実施され,順調に機能していると思います.非常事態宣言が出されたころは様々な日常の業務活動がどうなってしまうのだろうと心配していましたが,多くの活動がリモートワークのためのコラボレーションツール等のお蔭で表面的には大きな障害も無く実施することができています.このコラボレーションツールを活用した生活様式は私にとってコロナ禍における新しい体験でしたし,上手くいっていると言ってよい体験でした.

このコラボレーションツールを取り入れたシステムの活用によって私に限らず多く教員が,少なくとも業務においては想像していたより困難が少なくwith Coronaの新生活を送ることができたようです.そのため教員からは,コロナ禍が収まっても遠隔会議のままで,授業も一部は遠隔授業のままで良いのではないかという声が聞かれます.大学の中にはコロナ禍の収束状況も不透明なことから早々に秋以降も遠隔授業とすることを発表している大学もあります.しかしコロナ禍という特殊環境下でしかもたった3か月間の成功体験をもたらした新生活様式を今後のwith Corona, After Coronaに手放しで適用するのは余りにも早計ではと感じています.

大学の遠隔授業には,学生への学修負荷が大きい,実験・演習についての制約が大きい,クラブ活動等の学生生活の充実が図れない等の様々な問題が存在します.そのことに起因しては最近ではSNSを通じて対面授業の解禁を求めた「#大学生の日常も大事だ」運動も起きています.コラボレーションツールの活用そのものについても,例えば授業における出席学生の取り組み度を確認しにくいとか,会議における意思決定が対面とは異なってしまうリスクなどの問題が存在しています.コロナ禍で思いの外上手くいった体験を与えてくれたシステムの活用による新生活様式はあくまで限られた期間の厳しい制約下における次善策としての成功体験だと考え,with corona, after coronaの新しい様式として期待はできますが,慎重な適用が求められるべきだと思います.

このことは大学に限らず,一般の企業においても同様だと思います.コロナ禍でテレワークを導入したら,生産性も落ちることなく,社員の評判も悪くないので,本社オフィスを手放して今後は全てテレワークで業務を行うことにした企業が5月頃ニュースで取り上げられていました.6月の内閣府の調査ではコロナ禍でテレワークを導入した企業の8割強がテレワークの継続希望の意思を示しています.コロナ禍という特殊環境下で生産性を余り落とすことなく,従業員の通勤リスクを軽減できたテレワークは,今後のwith corona, after coronaの新しい生活様式として,その継続は期待すべきものですが,テレワークがもたらす従業員間のコミュニケーション不足に起因した職業性ストレスの増加や,テレワークにおける情報セキュリティ要求がもたらす従業員およびその家族の日常生活への影響など,テレワークがもたらす新たな生活様式の負の側面についても良く精査した上での適用が求められると思います.

取り留めもなく書きましたが,コロナ禍において採用された新しいシステムによる新たな生活様式の成功体験はあくまで短期間の特殊環境における体験であり,新しいシステムによる生活様式の今後のwith corona, after coronaにおける成功を保証するものではなく,短絡的なその適用はリスクを伴うことから,十二分な検討に基づく適用が必要であるという思いをお伝えできていれば幸いです.


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HCD-Net(人間中心設計推進機構)は、日本で唯一のHCDに特化した団体です。HCDに関する様々な知識や方法を適切に提供し、多くの人々が便利に快適に暮らせる社会づくりに貢献することを目指します。

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