HCDコラム

在宅業務に従事するようになると、鏡に映る自分の姿を見る機会が増えた。「もっと自分を喜ばせたい」、そんな思いでファッションにのめり込み、時代に反して服をたくさん買うようになった。国際規格ISO9241-11:1998によるとユーザビリティは有効さ、効率、満足度のそれぞれの達成度で測定できる。ファッションにおけるユーザビリティとは何であろうか。

ファッションより以前、衣類が果たす役割は防護である。防寒、防虫、防毒。機能性が高い、着脱がしやすい、重くない等、防護におけるユーザビリティは想像しやすい。一方で衣類には自己表現の役割もあり、着ている服がどのような人かを表す。例えばフランス革命の推進力となったサン・キュロットは、キュロットを履いた貴族への反発の表明として半ズボンを履かない。また、ナポレオン1世は皇帝即位後も狩猟大佐の格好で戦争の陣頭指揮を行い「人はその制服通りの人間になる」と発言している。この自己表現の衣類、つまりファッションにおける満足度はどう考えたらよいだろうか。

異分野の自己表現である音楽を例にひも解く。音楽は、音楽を成立させる3要素としてメロディ、ハーモニー、リズムを保有している。音楽を聴くと、あのメロディが良かった、コード進行にゾクゾクした、踊りだしたくなるリズムだといったぐあいの感想を得ることができる。これらは音楽の満足度要素である。

音楽の3要素にファッションを当てはめると、ハーモニーはコーディネート、リズムはシルエットと親和性が高いと考えられる。そしてメロディは時系列の歴史であり、つまり服を着る人が培ってきたパーソナリティに該当することになる。コーディネートとシルエットは極論衣服だけでも成立するから、いいアイテムを買えれば満足を得られる。しかしパーソナリティだけは、その人の個性…顔、髪型、体型などから雰囲気、人生、主張等が読み取れなければ加点対象にならない。つまり顔の役割は自己表現ファッションの最後のピースで、最も重要な存在ではないか。

服を買ってアイテムに満足するだけでは勿体ないと、最近では顔作りに勤しむようになった。眼鏡をその日のテーマで選び、web会議中の喜怒哀楽を表情筋に乗せ、走り込んで燃やした心を眼に宿し、毛流れのクセを活かした髪型に挑戦し、マスクの下で髭を蓄える。きっと顔作りがファッションのHCDサイクル促進、ひいては人間中心設計の習熟に役立つと信じてやまない。


HCD-Netで人間中心設計を学ぶ

HCD-Net(人間中心設計推進機構)は、日本で唯一のHCDに特化した団体です。HCDに関する様々な知識や方法を適切に提供し、多くの人々が便利に快適に暮らせる社会づくりに貢献することを目指します。

HCDに関する教育活動として、講演会、セミナー、ワークショップの開催、 HCDやユーザビリティの学習に適した教科書・参考書の刊行などを行っています。