HCDコラム

当社の扱う大型製品の中には、お客様の経営方針や運用意図を製品の外観を通して訴求するブランディングを目的としてオリジナルのカラーリングをあしらって提供するものがあります。コンセプトの立案から具体的な配色パターン案の展開と集約まで、お客様と協議を重ねながら創り上げていくものです。

先日、最終案に絞り込む段階で一度に三つの様式を使ってプレゼンテーションを行う機会がありました。一つめはスクリーンにカラーリングのコンセプトとCGで描画した絵を資料として提示するもの、二つめは3Dプリンタで出力した縮尺模型に彩色を施したもの、三つめはVR空間に表示された製品をヘッドマウントディスプレイで見ることができるもの、の三つです。

お客様からの質問や意見を聞きながらディスカッションを進める中で、それぞれの様式によってお客様からの反応や態度が大きく異なるという現象がおきました。一つ目ではコンセプトや配色の意味など客観的な質疑や批評が多く、二つ目ではカラーリングのバランスやカッコよさといった製品そのものの魅力に関すること、三つ目では製品が利用されるときの状況や目にした人がどのような印象を持つのかという体験に言及する言葉が多く得られました。

これらのコミュニケーションの質の違いには、プレゼンテーションの様式の違いから生じる説明者とお客様との距離、お客様が対象を見る視点の違いが大きく影響していると考えられます。お客様の頭の中を想像すると、一つ目はソーシャルディスタンスを隔てた第三者視点、二つ目は手の届くパーソナルディスタンスの内側での対話視点、三つめは説明者とは切り離された仮想空間に没入して製品と直接向き合う自分視点、になっていたと推察されます。

このような距離と視点の違いによって生起されるメンタルモデルの違いはあらゆるところでコミュニケーションやインタラクションの質に影響を及ぼします。皆さんもUI/UXの設計フェーズにおいては当たり前のように考慮されているでしょうし、評価のフェーズにおいてもユーザーの一人称視点、インタビュアーとしての二人称視点、観察者としての三人称視点を使い分けられているのではないでしょうか。

今後はさらに、オフィスワークからリモートワーク、メタバースへと物理的な距離と心理的な距離が複雑に入り組んだり行き来したりする環境の中で、視点に応じた情報提示の方法やインタラクションの様式など、それぞれの場に適したコミュニケーションをシームレスにつなぐ工夫が必要となるでしょう。

プレゼンでのフィードバックを受けて、改めて人の視点と距離、思考の人称について考える機会になりました。


HCD-Netで人間中心設計を学ぶ

HCD-Net(人間中心設計推進機構)は、日本で唯一のHCDに特化した団体です。HCDに関する様々な知識や方法を適切に提供し、多くの人々が便利に快適に暮らせる社会づくりに貢献することを目指します。

HCDに関する教育活動として、講演会、セミナー、ワークショップの開催、 HCDやユーザビリティの学習に適した教科書・参考書の刊行などを行っています。