HCDコラム

昨年度のフォーラムでもテーマとしましたが、ここ数年、ダークパターンに取り組んでいます。
もともと、ダークパターンにはHCI(Human Computer Interaction)として関心を持っていましたが、2010年から「ダークパターン」として整理され、ここ数年で社会的にも問題意識が高まり、社会問題化してきました。

designing連動企画 HCDフォーラム デザインと倫理(近日公開)
デザインと倫理フォーラム(HCD-Net)
フォーラム詳細(HCD-Net)

ダークパターンについては、UIデザインの問題だけではなく、社会全体の問題意識として捉えるべきだと考えています。つまり、デザインだけではなく、ビジネスそのものが人間中心であるべきだという観点から、取り組みを始めました。
そして議論を進めていくうちに、問題はさらに根深いことに気が付きました。それは、明示的なダークパターンの問題ではなく、「わかりにくい状態をそのままにしてしまっている」という問題です。

例えば、私たちはオンラインサービスにサインアップするときに、その利用規約を細かく確認することはほとんどありません。しかし、利用規約には権利の制限や、使用上の不利益に関する免責事項などが事細かに記されています。アプリの機能を使いたいという理由から、こうした細かい部分にまで目を通すことは、合理的な判断として「大事の前の小事」と捉え、通常は読み飛ばしてしまうでしょう。
アプリの利用程度であれば大きな問題にはならないかもしれませんが、実際には、保険の契約など、さまざまな場面で同様の問題が発生しています。それにもかかわらず、私たちはこの状況を放置してしまっているのです。

近年、コンプライアンス遵守や人権意識の高まりによって、企業の法務部門をはじめとする間接部門は膨大な契約業務に追われています。これは、取引において目的を遂行するために必要な間接業務が膨大になっていることを示しています。
しかし、個人の生活ではどうでしょうか。実は、私たち個人も日常的に膨大な間接的な情報処理を求められているのが現状です。それにもかかわらず、個人が割けるリソースには限りがあり、こうした情報処理に十分な注意を向けることは難しいのが実情でしょう。

しかし、ある程度ポイントを押さえれば、利用規約などの文書も、自分にとって大きなリスクがないかを簡単に判断できるようになります。特に、業務で契約に関わっているビジネスパーソンであれば、そうした判断の勘所を身につけているはずです。
しかし、契約業務に馴染みのない人にとっては、このような文章はどこから手をつけていいのかわからない「暗黒の森」のように見えるかもしれません。そして、こうした膨大な情報に圧倒されている人々を狙い、巧妙に仕掛けられるのがダークパターンであると言えます。

私はもともとインフォメーションアーキテクトとして、「理解のデザイン」を探究してきました。これまでは主に、「(誰かが)伝えたい内容をいかに的確に伝えるか」に特化していました。しかし、これからの社会を考えると、「膨大な情報に圧倒されている普通の人々(含む自分)」をサポートするデザインが必要ではないかと強く感じています。
このような問題に取り組むためには、クライアント(伝えることでメリットを得る人)がいない状況のため、自ら動くしかないでしょう。

そのため、このたび発足した HCD-Net ダークパターン研究SIG では、「受け手側を守るデザイン」についても研究を進めていきたいと考えています。SIGでは、
• 受け手にとってダークパターンとは何か
• どのようなデザインがダークパターンを回避し、受け手を守るのか
といったテーマについて議論していきます。
関心をお持ちの方は、ぜひご参加ください。

問い合わせ先:事務局
申し込み事項
• お名前
• 所属
• 肩書き
• 一言(心意気、SIGでやりたいこと、お考えなど)

また、関連情報として、コンセントで収集しているダークパターン関連のニュースをニュースレターで共有することになりました。こちらもぜひ参考にしていただければと思います。


HCD-Netで人間中心設計を学ぶ

HCD-Net(人間中心設計推進機構)は、日本で唯一のHCDに特化した団体です。HCDに関する様々な知識や方法を適切に提供し、多くの人々が便利に快適に暮らせる社会づくりに貢献することを目指します。

HCDに関する教育活動として、講演会、セミナー、ワークショップの開催、 HCDやユーザビリティの学習に適した教科書・参考書の刊行などを行っています。