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私は普段、様々な組織の皆様がHCDの考え方を業務で活用できるようになるための、人材育成活動、つまり研修やライブトレーニングに携わっております。HCDを学ぶ研修やライブトレーニングというと、インタビューや観察の練習から初めて、価値マップやカスタマージャーニーマップ等を用いた分析、アイディエーション、プロトタイピングと一連のサイクルを実施することが概ね定番と言えるかもしれません。ただ、教える側と教わる側の双方にとって最も難しいことは、そのような概念や手法の習得ではなく、「マインドセットの獲得」です。
これはHCDに限らず、デザイン思考・サービスデザインなどデザインの方法論全般について言えることですが、デザインというものには、論理的な思考法に基いて考えるマインドセットとは、相反する様々な要素が含まれます。仮説を探索・発見するための発散的な思考、課題定義から検証に至る過程を1回限りではなく反復することの重要性、何らかの仮説をもとに「まず、手を動かしてカタチにしてみる・やってみる」というスタンスなど。これらはデザイン実践の基本的な姿勢ですが、いずれにせよ、正しい解は何かしらの基準や指標から演繹的に導出されるという考え方とは大きく異なります。
これらの違いを理解することは学ぶ側にとっては、今までない新しいマインドセットの獲得にあたり、人によっては障壁を感じさせる場合もあるでしょう。しかし、そのステップを踏まないまま、HCDにまつわる様々な概念・手法を学ぶだけでは、プロセスと手法を表層的になぞるだけの実践に陥る可能性も孕んでいると考えます。そのため、私は研修やライブトレ
ーニングの場では、学ばれる皆様に向けて、「HCDのようなデザインプロセスには、みなさんが慣れ親しまれてる従来の考え方・やり方とは、(おそらく)異なる要素も多く含まれている」ということを、手法や概念の説明に入る前に丁寧に伝えるよう意識しております。
人間中心の価値観に根ざして、新しいマインドセットの獲得や態度変容を促すための人材育成活動はどうあるべきか、今後さらに深めていきたいと考えております。