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私は、土木が対象とする「ハードな社会基盤を計画しつくる仕事にもHCDを」を目指して研究と実践を続けています。2024年6月号では「HCD×土木→DEI」と題して、私が関わってきた土木とDEIをつなぐのが、HCDかもという期待をお話ししました。今日は、土木の分野でのHCDに関連する話題を二つご紹介します。どちらも、業界や組織の将来像や必要な施策、制度を考える際にペルソナを使った事例です。
まず一つ目は、土木学会110周年記念事業の一環として行われた「土木技術者像を描く」の活動。30年後の土木技術者像と、その実現のために必要な制度や施策を考えることを目的としたものです。EUが2021年に発行した “Farmers of the Future” (1)に示された手法が参考とされました。まず、文献調査や講義により世界の変化の動向や土木界の要因を学びます。デスクリサーチですね。その後、参加者は4グループに分かれ、グループごとに3つの職業のプロファイル、そしてプロファイルごとに3名のペルソナを2ヶ月かけて描き、そして最後に全員が集まって必要となる教育や制度を議論しました。23名の参加者に より、12の職業のプロファイル、33名のペルソナを描いた壮大なプロジェクトとなりました。成果は2024年11月の土木学会110周年記念式典で披露され、詳細な成果報告書も公開されています(2)。
そしてもう一例が、私も関わっている土木学会の5年計画の策定。課題の洗い出しからのフォアキャストと、将来のあるべき姿からのバックキャストの両面での取り組みが進んでいます。後者では「土木学会のあるべき姿」を議論したのち、その姿の実現のために重要な6名をペルソナとして記述しました。こちらは既往研究や調査結果なども参照しました。現在、フォアキャストとバックキャストの検討結果をどう統合して計画として取りまとめるのかを議論しているところです。
これらの事例ではHCDでは必須とされている厳密なユーザー調査は実施されていません。それでも、「土木におけるHCD」を進める上では大きな意義があります。それは、(ハードな設計ではないにしても)教育や制度、計画というアウトプットを考える際に、ユーザーのあるべき姿を先に考えたことです。土木技術者もついつい技術シーズで考えがちですし、計画策定の手順もそれを前提に作られています。私が関わった土木学会の計画策定では、実施する施策ありきで計画を立てがちなことに対する問題意識も共有されました。このような場面においてユーザーのことを徹底して考えるプロセスが実行されたのは、画期的なことといえます。
近い将来、土木の仕事の分野で、HCD-Netの会員やHCD専門家の皆さんとご一緒できるかも、なんて心から思えるようになってきました。
参考文献
(1) https://doi.org/10.2760/680650
(2) https://committees.jsce.or.jp/jsce110/node/15