HCDコラム

今年、約1年の育児休業を経て職場に復帰しました。
休業前は人間中心設計(HCD)を学びながらサービスデザインなどの実践に取り組んでいましたが、育児の中にもUXと通じる視点があると気づかされる出来事がありました。

子どもとの日々は、「遊び」という名のサービスを提供する連続です。
ですが、相手は言葉を持たないエンドユーザー。
反応もフィードバックもあいまいで、「見えない声」に向き合うプロセスは、まさにUXそのものだと感じます。

ある日、子どもが絵本を持って私の膝に座ってきました。表紙を開き、「読んであげよう」と声を出したとき、子どもはどこか納得のいかない表情で、私の手を押しのけました。

戸惑いながらも観察していると、子どもは絵本の端に手を伸ばし、自分でページをめくろうとしていました。
——読んでほしいのではなく、自分でめくりたかったのです。

私はページの端を少し摘み、「どうぞ」と差し出しました。すると子どもはうれしそうにページをめくり始めました。

絵本=読んであげるものと思い込んでいた私は、ニーズを取り違えていたのです。
観察し、小さなサインを拾い、試行錯誤する。そのプロセスがUXの基本であることを、改めて実感しました。

もうすぐ子どもは2歳。いわゆるイヤイヤ期に突入します。
これからまた、ホリスティックな視点が試される瞬間が増えるかもしれません。
それでも、育児という小さな実験場で得た気づきは、これからの実践においても大切なリマインダーになりそうです。


HCD-Netで人間中心設計を学ぶ

HCD-Net(人間中心設計推進機構)は、日本で唯一のHCDに特化した団体です。HCDに関する様々な知識や方法を適切に提供し、多くの人々が便利に快適に暮らせる社会づくりに貢献することを目指します。

HCDに関する教育活動として、講演会、セミナー、ワークショップの開催、 HCDやユーザビリティの学習に適した教科書・参考書の刊行などを行っています。