ユーザ工学入門

ユーザ工学というのはユーザの工学ですからユーザ、つまり何かをつかう人に関する工学ということです。そこで、何をつかうかですが、これは人工物すべてを対象としている、少なくとも私はそう考えています。


ここでいう人工物とは、鍋釜シャンプーなどの生活用品も、洗濯機やコーヒーメーカなどの家電製品も、パソコンやゲームマシンなどの情報通信機器も、自動車やバイクなどの機械製品も、文房具や大工道具などの小物も、ATMや自動販売機などの公共機器などなどを含めた、いわゆる身の回りの機器や製品全般を含みます。


含みますということはまだ他にもあるわけで、上記のものがハードを基本としてそこに組み込みソフトを含めたものも入っているのに対し、当然ながらOSやアプリケーションソフトやインターネット関連(ウェブサイトなど)の純然たるソフトも入ります。


でもこれだけだといわゆる機器とか製品というイメージ、単品のイメージが強いですね。で、そのほかにシステムもの、つまり、工場なんかの監視制御システム、病院や在宅看護などの医療看護システム、ETCやVICSや電車・駅などを含めた交通システム、大学や企業内教育、社会人教育などの教育システム、建築物やその集合体としての都市システム、年金や税金なんかの自治体公共システムがあり、さらに物流システムや金融システムなどなどのシステムが入ります。学会というシステムも入りますね。


まだあります。それはいわゆる暗黙知に近い物までを含めて、家庭生活のありかた、学ぶという行為のあり方、戦争ということとか、遊びということ、などなどがあります。


ようするに人がある目的を達成しようと手を加えたものごとすべてを人工物と考えています。


世の中には人工物工学という領域もありますが、ユーザ工学では人工物に関わる人間の側に視点をおいています。そこが両者の違いです。そしてユーザが人工物との関わりのなかで、可能なかぎり適切にその目標を達成できるようにしようと考える研究領域ということになります。この定義についてはユーザビリティ工学とか人間中心設計という概念との関係で後ほどご説明します。


その意味では完全なる実学です。机上の学問ではないし、アームチェアに座っているなんてとんでもない。そんな研究領域です。だから頭だけでなく手も足も体も必要になります。


(第1回・おわり)


HCD-Netで人間中心設計を学ぶ

HCD-Net(人間中心設計推進機構)は、日本で唯一のHCDに特化した団体です。HCDに関する様々な知識や方法を適切に提供し、多くの人々が便利に快適に暮らせる社会づくりに貢献することを目指します。

HCDに関する教育活動として、講演会、セミナー、ワークショップの開催、 HCDやユーザビリティの学習に適した教科書・参考書の刊行などを行っています。