2. ユーザビリティを高めるための基本的な考え方 −ユーザビリティ・デザインガイドライン−
製品のユーザビリティを高めるために、どのようにユーザインタフェースを設計すれば良いのかを編集したものを、ユーザビリティ・デザインガイドラインという。これらは、経験則を初めとして、関連する研究領域の成果を元に編集されている。関連する研究領域としては、人間工学、心理学、生理学、認知科学、社会学、人類学、民俗学など人間研究に関するあらゆる領域が含まれる。最新の研究成果によって、新たな知見に基づくガイドラインが追加されている。しかしながら、ユーザビリティ研究が始まってから、30年以上の年月が経た今、基本的な設計指針がまとめられている。
ここでは、ユーザビリティに関する基本的な指針として、ISO9241-10 (JIS Z 8520 人間工学‐視覚表示装置を用いるオフィス作業‐対話の原則)を紹介する。この規格では、システムとユーザとのインタラクションをユーザに適切に設計するための指針として、次の7つの原則を示している。
- 2-1. タスクへの適合性
- 2-2. 自己記述性
- 2-3. 可制御性
- 2-4. 利用者の期待への合致
- 2-5. 誤りに対しての許容度
- 2-6. 個別化への適合性
- 2-7. 学習への適合性
原則を表す言葉が、規格で使われる表現のために、一般的でないものも多い。デジタルカメラを例にしながら、それぞれについて簡単な説明をしてゆく。
2-1. タスクへの適合性:ユーザがタスクを効果的かつ効率的に行うことを助けなければならない。
デジタルカメラを利用する際に、ユーザが頻繁に利用するタスクに合わせて、操作ができるようになっていることを指している。例えば、観光地でフレッシュが禁止される場所で多く利用する場合は、フラッシュの変更などの設定は、即座に変更できるように設計する必要がある。
ユーザのタスクに適合させるためには、設計者はユーザのタスクを理解する必要があり、事前にユーザタスクを分析していることが必要になる。ここで言うタスクとは、ユーザの目的を達成するために必要な行動を指している。システムを操作するための手順ではない。このタスクを明確にして、タスクに適合するように操作方法を設計するということである。最も重要かつ基本的な設計指針である。
2-2. 自己記述性:ユーザはシステム側からのフィードバックによってから、システムの状態をすぐに理解できなければならない。また、ユーザからの問い合わせに応じて、適切に説明しなければならない。
例えば、デジタルカメラを撮影している時に、その時の画質やプリントサイズが何であるかがわかるように画面に表示されることによって、ユーザは撮影状況に応じて、撮影条件を変更しやすい。
このように、システムがユーザに求めていることや、ユーザが何を操作しているかが何であるのかをユーザ側が即座に理解できるように、画面デザインや操作部分を設計することを求めているものである。
2-3. 可制御性:ユーザが目標に到達するまでに、ユーザがシステム操作の主導権を持ち、次の操作をどうするか、操作のスピードなどをユーザが制御できなければならない。
デジタルカメラの機能設定している時など、もう一度、最初から遡って設定し直したいと思うことがある。そういった時に、設定いちいち逆に辿るのではなく、すぐに、設定メニューの先頭にいつでも行けるようになっている方が良い。
ユーザがシステム操作に対して、常に制御権を持っているということは、当然のような原則であるが、実際は難しい場合が少なくない。操作の途中から操作方法がわからなくなったり、途中で作業を中断しなければならなくなることがある。その場合の対応ができるように設計されていることが典型的な例である。
2-4. ユーザの期待への適合:対象となるユーザのタスクについての理解度、教育レベル、経験度、常識などと矛盾がないように対応できなければならない。
操作や表示の一貫性を確保することは重要な指針である。デジタルカメラであれば、撮影時と再生時のメニューの選択・決定などの操作法が同じでなければならない。
ユーザがシステムを利用する際には、頭の中で、自分なりの利用の仕方を想定している。この想定に合わせて、操作全体を構成する必要がある。これによって、ユーザが操作の開始時、または操作途中で迷うことを少なくすることができる。
2-5. 誤りに対する許容度:ユーザがたとえ誤って入力をしても、最小の修正作業か、修正作業なしで、意図した結果に達成することができなければならない。
デジタルカメラで、一度、撮影画像を消去してしまうと回復ができないため、撮影画像を消去する場合の確認などがこの例にあたる。
ユーザの誤りに対しては、基本的なアプローチがある。まずは、誤って操作しないように前述の1から4の原則を踏まえて設計することである。さらに、決定的な誤りをしないよう設計されていることが必要になる。これは、安全性に関わるものであれば、入念にチェックが必要である。もし、操作を間違えたとしても、可能な限り復旧できるようにすることである。もし、復旧ができない操作がある場合は、必ず、確認手段を設ける必要がある。
2-6. 個別化に対する適合性:様々なユーザのタスクへの必要性、嗜好、熟練度などに適合できるようにシステムをカスタマイズできるようにすべきである。
デジタルカメラを使うユーザであれば、初めて利用するユーザであっても、少なくとも撮影と再生ができるようにすべきであることと、同時に、絞りやホワイトバランスなどの上級者の設定をマニュアルでも設定できるように配慮することなどがある。
初めて操作するユーザから操作に習熟したユーザまでを考慮した操作方法を準備する必要がある。例えば、初心者への対応としては、基本的な操作ができるようにすることや、熟練者の場合には、自分がカスタマイズした設定値を記憶し呼び出せるようにすることなどがある。また、様々な障害を持つユーザの利用へも配慮した設計が必要である。
一方、カスタマイズは、ユーザ設定の自由度を無制限にするものではなく、安全性や公共の福祉などを考慮した上でのレベル設定することが必要になる。
2-7. 学習への適合性:ユーザがシステムの使い方を学習することを支援し、誘導すべきである。
デジタルカメラのシーン設定機能を使うことによって、Autoで撮影するよりもどんな効果があるのかを、使いながら理解できるようにガイドされていることを例にあげることができる。
人間にとって、本来、学習してゆく過程は楽しいものであり、適切に設計されていると、利用するうちに、ユーザが手放せないものとなる。この学習を進めることを促進するように設計方法は、未だ明確になっているとは言えないが、少なくとも、ユーザが嫌な思いをしないこと、用語をわかりやすくすること、ユーザが覚えることが多くならないようにすることなどの条件は整備する必要がある。また、システムの機能を覚えることによって、将来的にどんなことができるようになるのかを把握しやすいことも重要である。
以上の設計原則に関わる特に重要なキーワードとしては、一貫性、わかりやすさ、フィードバックがある。これらについては、このシリーズを通じて、詳細に解説される予定であるので、そこで深めていただければと期待している。
このISO9241-10以外にも、設計ガイドラインの参考となるISOやJISの規格は多くある。この中から人間工学関連で、ユーザインタフェースに関連する規格を表1に整理した。また、著作物としては、日本人間工学会アーゴデザイン部会が編集した『GUIデザイン・ガイドブック』が資料として充実している。しかしながら、欧米の資料に比べると圧倒的に少ないと言わざるをえない状況にあるのは残念なことである。
| ISO | タイトル |
|---|---|
| ISO 9241 | 人間工学−視覚表示装置を用いるオフィス作業 シリーズ 第10部 対話の原則、第11部 使用性の手引、第12部 情報の提示、第13部 利用者案内、第14部 メニュー対話、第15部 コマンド対話、第16部 直接操作対話、第17部 フォームフィリング対話 |
| ISO 9251-151 | ワールドワイドウェブのユーザインタフェースの人間工学設計 |
| ISO 9241-20 | 情報通信機器とサービスのアクセシビリティガイドライン:共通指針 |
| ISO 14915 | マルチメディアユーザインタフェースの設計 第1部 序論とフレームワーク 第2部 マルチメディアにおけるコントロールとナビゲーション 第3部 メディアの選定とメディアの結合 |
| ISO 16071 | 人間とコンピュータのインタフェースのアクセシビリティ指針 |
表1:ユーザインタフェースデザインに関連する規格
