HCDコラム

今年度から理事長のお役目を拝命いたしました井登です。前任の篠原さんが理事長としての7年で成し遂げられた数々の偉業、そして20周年を迎える当機構の歴史の重みを考えると、正直、私には重すぎるバトンだと感じています。だからこそあえて重く考えすぎず、昨今活躍が目覚ましい若い世代の皆さんにこの大切なバトンをお渡しするまでの間、「一時的」にお預かりし、HCD-Netをより素敵なコミュニティへとアップデートしていきたいと考えています。

個人的に、20周年の節目を迎えるにあたり、HCD-Netが取り組むべき課題が2つあると考えています。
ひとつは、HCDのあり方の再定義についてです。デザインの対象範囲と役割、責任が広がる現代社会において、HCDのあり方を再定義する時期に来ています。2022年に策定された「HCD専門家倫理規範」を契機に、デザインと倫理に関する議論が活発化し、ダークパターン研究会SIGも発足しました。これは、社会や産業界の価値観が、近代的な資本主義から、財務指標だけでなく多様な非財務指標やサステナブルな取り組みへと大きく転換していることを示しています。このような流れの中、「人間中心」という近代概念を源流に持つHCDも、その立ち位置と視野を改めて見つめ直す必要があります。
ふたつめは、HCDパーソンの社会と産業界における価値向上についてです。経済産業省による「高度デザイン人材」の議論や、「デジタルスキル標準」におけるデザイナーの位置づけなど、HCDパーソンへの期待は高まっています。このような動きの中でこれからのHCDのあり方を再考し、それを実践できる人材として必要となるHCDのコンピタンスをアップデートしていくことが、高度専門職能としてのHCDの価値向上に繋がると考えています。

これらの課題を乗り越えることは容易ではありません。だからこそ、20周年を迎える今、活発な議論をスタートし、多様な意見やアイデアをコミュニティの中で盛り上げていくことが必要です。重いテーマではありますが、あえて軽やかに、カジュアルに対話を重ねていきましょう。
HCD-Netの活動は、コミュニティを構成する会員の皆様にかかっています。今年度も、何卒よろしくお願いいたします。


HCD-Netで人間中心設計を学ぶ

HCD-Net(人間中心設計推進機構)は、日本で唯一のHCDに特化した団体です。HCDに関する様々な知識や方法を適切に提供し、多くの人々が便利に快適に暮らせる社会づくりに貢献することを目指します。

HCDに関する教育活動として、講演会、セミナー、ワークショップの開催、 HCDやユーザビリティの学習に適した教科書・参考書の刊行などを行っています。