HCDコラム

第一子を出産してから、私は週に一度、食品や日用品を届けてくれる宅配サービスを利用しています。小さな子どもを連れての買い物は一苦労。スマートフォンのアプリで注文し商品と一緒に届くカタログを見ながら次の週の注文を決めるのが、すっかり習慣になっています。

ある日、いつものようにカタログを眺めていたとき、普段はあまり気に留めない園芸用品のカタログが目に留まりました。そこには、植木鉢タイプの花や苗が掲載されていて、ふと右端に目盛りが印刷されていることに気づいたのです。A3 サイズのカタログの長辺に35cm 分の目盛り。食品や日用品のカタログにこの目盛りはありません。

よく考えてみると、通販で商品を選ぶとき、私はいつもメジャーや定規を取り出してきて、サイズを確認していました。それが当たり前だと思っていたのです。でも、このカタログのように、目盛りが印刷されていれば、わざわざ道具を取りに行く手間が省けます。サイズ感をその場で確認できることで、「あとで測ろう」と思って忘れてしまうことも減り、購入のハードルがぐっと下がります。買う側としては「この商品が欲しい」という熱量が高い状態でサイズの確認ができ、忘れず注文ができますし、売る側としても注文機会が増えるので両者にとっていいなと思いました。このようなちょっとした工夫が、ユーザーの行動を後押しし、より良い体験につながるのだと改めて実感しました。

私は普段、スマートフォンアプリの UI 設計に携わっており、ユーザーインタビューやユーザビリティテストを通じて、HCD を実践しています。ユーザーの行動やニーズを深く理解し、使いやすい体験を提供することが私の仕事です。ユーザーがどんな場面で困っているのか、どんな工夫が役立つのかを観察し、設計に反映させることが求められます。

今回の園芸用品カタログのように、HCD の考え方は特別なものではなく、私たちの日常の中にも自然と存在しています。ちょっとした気づかいや配慮が、ユーザーにとっての「使いやすさ」や「わかりやすさ」につながると思います。

日常の中にある「気づき」に目を向けてみると、HCD のヒントは意外と身近なところにあるのかもしれません。


HCD-Netで人間中心設計を学ぶ

HCD-Net(人間中心設計推進機構)は、日本で唯一のHCDに特化した団体です。HCDに関する様々な知識や方法を適切に提供し、多くの人々が便利に快適に暮らせる社会づくりに貢献することを目指します。

HCDに関する教育活動として、講演会、セミナー、ワークショップの開催、 HCDやユーザビリティの学習に適した教科書・参考書の刊行などを行っています。