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道路の舗装の照り返しが恨めしいほどの暑さが続いています。皆さん、お元気でお過ごしでしょうか。今日のテーマは、その「舗装」です。
実は舗装も、私が基礎教育を受けた土木工学の分野の一つです。土木学会の中に委員会があり、舗装工学を専門とする研究者や実務者が参加する研究発表会を開催しています。第30回となる「舗装工学講演会」は2025年8月に札幌で開催(1) され、私は「異分野から見た舗装の魅力」についてのパネルディスカッションに登壇することになりました。同じ土木でも私の専門はものづくりの前の段階の計画論。厳密には確かに異分野で、舗装工学との接点を見つけることができません。実際、私にとっての舗装とは、子ども時代を過ごした神戸の急坂のコンクリート舗装(ドーナツ型の溝のある)、雨の日の高速道路の排水性舗装(従来の舗装と水溜まりのでき方が違う!)、そして第二の故郷のアメリカのウィスコンシン州や現在住んでいる北海道の春先の荒れた路面(路面にできた穴のことをポットホールといいます)といったように、技術的な視点は全くなし…。
ところが、少し勉強したら、1950年代には「舗装とUX」とも呼べるべき概念があったことに行き当たりました。アスファルト舗装のサービス指数である Present Serviciality Index (PSI)です。舗装の状況をドライバーの乗り心地として 0点(非常に悪い)から5点(非常に良好)で評価するもので、舗装を補修するタイミングの判断基準として用いられました。すなわち、UXが舗装の供用水準の目標値だったのです。
毎度毎度、ユーザーテストをするのは現実的でないからでしょうか、路面の測定値(平坦性、ひび割れ度、パッチング率、わだち掘れ深さ)からドライバーの乗り心地を算定する式が提案されています。米国のThe American Association of State Highway Officials (AASHO) が1962年に報告しました。この式の求め方がすごい。イリノイ州に試験道路を建設し、延べ55.7万台の様々な貨物自動車を、延べ2,813万km、25ヶ月に渡って走らせ、ドライバーに乗り心地を5段階で評価させます。このドライバーによるたくさんの評価値とそれぞれの評価値が出された時の路面の測定値のセットを統計的に分析して計算式を作ったというのです(2)。
土木におけるHCDは遅れている、と、いつも話していましたが、少なくとも舗装については1950年代にはUXを考慮していたことを知りました。その上で、HCD、UXを関心事とする私たちは何かを提案できるでしょうか。あるいは、舗装とUXの関係を元に新しい何かを思いつくことができるでしょうか。色々な展開のきっかけにできそうです。まずは舗装とUXについて、今年の冬季HCD研究発表会にて詳しくご紹介することをめざします。会場にてお会いしましょう!
(1) 第30回舗装工学講演会 https://committees.jsce.or.jp/pavement06/node/28
(2) 多田宏行(監修):漫画で学ぶ舗装工学─基礎編─;第6章,建設図書 (1996)