HCDコラム

先日車で移動中、高速道路のサービスエリアに立ち寄りました。最近のサービスエリアのお手洗いは非常に綺麗でバリアフリー対応され、入り口に混雑度が表示されており、ユーザーへの配慮が多くなされている空間だと感心していました。しかしそれも束の間、手を洗おうと洗面台の手洗いを見た瞬間、残念な気持ちになりました。

洗面台に設置されていた手洗いは某海外大手メーカー製で、蛇口とドライヤーが一体になっています。蛇口中央部から水、左右からドライヤー(温風)が出る構成で、ボウル部分含めて洗練された外観ですが、ほぼ全面に「蛇口部」「ドライヤー部」というシールが貼られていました。よく見ると本体に手と矢印のアイコンの刻印があるのですが、コントラストが低く控えめな表現です。また、ボウル部横の台には「△ご注意△」というラベルも貼られていました。ラベルには「泡石鹸プッシュ後、ドライヤー部に手をかざすと、泡状の石鹸が飛散してしまうことがあります。「下記図のように、蛇口部で石鹸を洗い流してからドライヤーをご使用ください。」と記載されており、丁寧に蛇口とドライヤー部のイラストも記載されていました。

機器の構成として、水と温風(ドライヤー)は人に対して正面から出る一方、泡石鹸は人に対して左側の口から出るようになっています。
この場合、手洗いの行動を詳細化すると下記4手順です。
①正面中央の蛇口に手を近づけて手を濡らす
②左側の口から泡石鹸を出して手を洗う
③再度正面中央の蛇口に手を近づけて泡を洗い流す
④正面左右のドライヤー部分で手を乾かす

単純に考えると、移動する事なく手洗いが完了するのは効率が良いように思えます。しかし①の蛇口と④のドライヤーが近い事、逆に途中で必要な②の方が遠くにあることで、①〜④の動線が複雑になってしまっているのです。人間中心設計のプロセスに沿えば発売前に発見できそうなエラーですが、某大手海外メーカーでも、このようなエラーを誘発する洗面台を発売してしまったのが残念でなりませんでした。

「印象に残る美しい空間を作りたい」という意図で選択されたのかもしれません。しかし、使い方がわからない人が多いためにラベルを多用し、泡石鹸が飛んでくるという残念な思いを利用者にさせてしまうのでは、体験デザインとして優れているとは言い難い事例です。

改めて、人間中心設計プロセスの実践・普及が専門家に求められていると感じました。


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HCD-Net(人間中心設計推進機構)は、日本で唯一のHCDに特化した団体です。HCDに関する様々な知識や方法を適切に提供し、多くの人々が便利に快適に暮らせる社会づくりに貢献することを目指します。

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