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HCD-Netフォーラム2019:
Reiwanovation ~社会課題を解決する令和のイノベーション ~
開催レポート1日目【11月29日(金)】

11月29、30日の2日間のHCD-Netフォーラムは、200名以上の方が参加し、製品やビジネス開発における「意味のイノベーション」や、SDGsに代表される社会を変革するイノベーションへのHCDの役割を考える貴重な機会となりました。





■11月29日 開会式・オープニングパネル「令和元年HCDの最新動向とこれから」 ----------


HCD-Net理事長の篠原稔和氏の司会によるオープニングパネルでは、HCD-Netを代表するリーダー達による業界の最新動向が紹介されました。水本氏による「関西発のHCD最新潮流」では、ブレインストーミングやペルソナへの問題提起からはじまり、 「KJ法」の文章として表現することで深く考えることの重要性が紹介されました。吉武氏からは、様々な知見や知識が整理されているという「人間工学規格」と、UXネイティブである学生の企画イベント「UX ROCKET」、HCD専門家資格が紹介されました。長谷川氏からは、臓器提供意思表明率のような社会を動かす仕組みが、デフォルト値の設定というデザインに大きく影響されるという例をあげて、デザインの倫理について紹介がありました。





■11月29日 基調講演  ----------

本條 晴一郎氏『意味のイノベーションと消費文化』

「意味のイノベーションと消費文化」と題した基調講演では、ミラノ工科大学教授のロベルト・ベルガンティが提唱した製品やサービスにおける「意味変化」がもたらす市場における新たな価値提案のあり方を、欧州におけるろうそくの事例を引用しながら「意味のイノベーション」を紹介。このような「意味」の変化を捉えること自体をR&Dの対象として取り扱うことの重要性が紹介されました。加えて、この考え方を問題解決型のデザインアプローチに対するカウンターと捉え、問題解決による満足(功利的便益)ではなく、「喜び」を与える(快楽的便益)ための「価値転換」思考が、これからのイノベーションにおいて重要性を増す、と提言されました。講演終盤では、製品やサービスを創り出す企業側の視点だけでなく、その価値を受け取る消費者側の視点から見た「意味」が形成されるコンテクストとの相互作用をも併せて見据える必要があると論じられました。
ややもすると問題解決型の思考に偏りがちなHCDの捉え方に、拡がりと可能性を提供いただけた講演でした。





福島 治氏『世の中に無いサービスをデザインして、障がい者の収入をつくる』 ----------


『Design for the other 90%』。これまでDesignは主に商業的な領域で活用されてきたが、それは一部の人々の一部の領域に対するものです。これからは、残りの90%=すべての人のためにデザインは活用されていく必要がある、というソーシャルデザインのメッセージを数値データも交えて説明いただくところから、講演がスタートしました。
これまでのご自身の取り組みを通して、このようなソーシャルデザインがいかに必要か、どのような効果があったのかが紹介。人の欲望のためのデザインではなく、感謝しされるためにデザインは活用できる、という可能性が示されました。
一方で、ソーシャルデザインは持続性が非常に難しいとも指摘。障害者のアートを活用する最近のプロジェクトを事例に、創り出すものが’福祉の一環’という認知ではなく、サービース/価値そのものとして社会に求められることが重要で、そういう状態が持続的な活動に繋がると言います。
ソーシャルデザインの取り組み、可能性のご紹介ではあったが、サービスデザインの問題解決型/価値創造型の課題にも通じる示唆をいただきました。これからの時代のDesignの本質を問いかける講演でした。





東 信和氏『新規事業・新商品開発における10のツボ』 ----------


東 信和氏の講演では、新規事業、開発の心得についてお話いただきました。
企画者などを通したユーザー視点ではなく真のユーザー視点で開発しなければならないこと、社会の動向を把握しパープルオーシャンの隙間を狙っていくことなどを具体的なイメージと共に話して頂きましたが、特に10個目のツボの「情熱があるものは強い」また「情熱がなければやらないほうがいい」というお言葉が印象的でした。社会課題を解決する令和のイノベーションを起こしていくには、誰かではなく自分たちこそが情熱を持って取り組んでいくべきだと感じました。




益田 文和氏 『Inclusivity and SDGs』 ----------


基調講演の最後は、益田文和氏による「Inclusivity and SDGs」。本講演では、同氏が実践してきた「サステナブルデザイン」について、その具体的な事例とともに、その意味や現在のあり方に対する問いかけがなされました。
そもそもサステナブルを「持続可能」としたことで、本来の意味を変えてしまうことになってしまったのではないか。むしろ、「現代文明は持続可能ではない。現在の延長線上に未来はない。」、「これまでとは違う新たな社会、経済の仕組みと文化が必要」「今の状況をどうしたら続けられるかと考えてはならない。」とし、そのことこそが「サステナブルの意味である」と強調。また、「サステナブルデザイン」とは、「何かをデザインする」といったことではなく、「何のためのデザインか」を考えることであって、「私のため」「私たちのため」「コミュニティのため」「現代の生活のため」「ビジネスのため」など、「ISSUE(課題・論点)のためのデザイン」であることが語られました。
そして、「SDGsのような活動が何のためにあるのか」といった投げかけから、SDGsの17つの目標とその実践例を紹介した上で、新たな18番目の目標として「人類の未来そのものである子供たちと話し合い、彼らに託せる社会を用意する」を掲げ、「子供の未来のためのデザイン」を求めていくべきことが提言されました。「HCDの考え方や活動をSDGsを始めとした社会そのものを変革するイノベーションに活かすべき」と問いかける今年のフォーラムにおいて、そもそも「何のためのデザインか」といった、私たちの活動とその意味を問い直すことを迫る時間となりました。



■11月29日 HCD普及貢献団体・特別表彰式&記念講演 ----------

令和元年を記念して、HCDの普及に貢献した団体として「総務省・行政管理局」が特別表彰されました。同省では、「電子政府ユーザビリティガイドライン」の採用、調達時のサービスパートナー企業の参加与件としての「人間中心設計専門家」の資格保持者の明記、電子政府(e-Gov)を始めとした各種サービス開発における認定HCD専門家の採用などが推進されています。
この特別表彰のプレゼンターとしては、HCD-Netの創設以来、行政への活動を推進してこられた平沢尚毅先生(小樽商科大学・社会情報学科教授、HCD-Net評議委員)が担当され、その表彰の意義を語ってくださいました。
その後、受賞団体を代表して、総務省・行政管理局の大西一禎氏による「政府におけるHCD推進活動とHCD-Netへの期待」 と題した記念講演がありました。この講演では、「行政を取り巻く環境」から「現在の行政」における使命の中、政府におけるHCDの推進の考え方について紹介。その進め方としては、「具体的なプロジェクトでの実践」から始めて、「スキルやマインドセットの習得」「政策への反映」といったステップとなっています。そして、今後の「HCD関係者との協働」として、「共創的な探究」を行うことへの期待の言葉で締めくくられました。





■11月29日 学術奨励賞 表彰式 ----------

【学術奨励賞】
多数の利害関係者が参与する短期間でのアプリ開発におけるHCD活用事例の考察
草野孔希氏、山下遼氏、橋口恭子氏、西谷智広氏、茂木学氏





■11月29日 HCD-Net AWARD2019表彰式 ----------

【最優秀賞】
当事者を主体者に変える、「動機のデザイン」とプロセスモデル
有限会社リンク・コミュニティデザイン研究所・成安造形大学 由井 真波氏、
有限会社リンク・コミュニティデザイン研究所 小野 文子氏





【優秀賞】①

ホワイトボード上で動かせるイラスト集「ぺたぺた会議」
富士通デザイン株式会社 加藤 正義

【優秀賞】②
インクルーシブデザインから生まれた体験型エンタテインメント
ソニー株式会社 西川 文、武上 有里、西原 幸子、津田 崇基


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【優秀賞】①

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【優秀賞】②




【優秀賞】③

生活者主体の持続可能な価値循環モデルを生み出すアクティブワーキング
株式会社インフォバーン 木継 則幸、白井 洸祐、株式会社イミカ 原田 博一

【審査員特別賞】
(「ユーザーを見つめてうれしい体験」を企画する)ビジョン提案型デザイン手法
日本人間工学会アーゴデザイン部会 上田義弘、郷健太郎、高橋克実、早川誠二、柳田宏治、山崎和彦


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【優秀賞③】

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【審査員特別賞】

【レポート作成】 HCD-Netフォーラム2019実行委員 ※五十音順
飯尾 淳、飯塚 重善、井登 友一、辛島 光彦、河野 泉、佐藤 公一、佐藤 摩耶、篠原 稔和、中村 めぐみ、益成 宏樹、山岡 和彦、山口 恒久

HCD-Netフォーラム2019開催レポート【2日目:11月 30日(土)】へ続きます。


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HCDに関する教育活動として、講演会、セミナー、ワークショップの開催、 HCDやユーザビリティの学習に適した教科書・参考書の刊行などを行っています。